台湾有事は日本有事につながるか
ウクライナの次は台湾か!? 8月4日から始まった中国による軍事演習は、今までにない過去最大の際どさで、台湾をぐるりと取り囲みました。上の図を見てください。緊張の高まる台湾海峡には、大陸と台湾のちょうど真ん中に「中間線」と呼ばれる双方が暗黙のうちに守ってきた境界線があります。1995〜96年にも一度「台湾海峡危機」と呼ばれる中国による威圧があり、中国軍はこの「中間線」ギリギリまで演習区域を進めミサイルの威嚇発射を行いました。
この時はアメリカが空母2隻を派遣し、当時は兵力差の大きかった中国軍は手を引きました。27年後の2022年8月、こんどは中国は「中間線」を全く無視して、台湾の領海にも踏み込むという暴挙に至りました。中国から発射された弾道ミサイルは、5発が日本のEEZ(排他的経済水域)の内側に落ち、そのうち4発は史上初の台湾の上空越えでした。
沖縄県の与那国島の漁協は、沖合に漁に出た漁師を至急呼び戻し、漁をあきらめるように言いました。与那国島は台湾と目と鼻の先にあり、危険すぎると判断したからです。なんで中国の軍事演習に怯え、日本の漁師が仕事を中止しなければならないのでしょうか。日本もなめられたものです。
アメリカと中国の関係は、今や極めて危険なレベルまで、軍事的緊張が高まっています。ヨーロッパでウクライナがロシアに攻め込まれたのと、東アジアで台湾が中国に軍事支配されるのは、相似形だと言えます。どちらも、
- 力による一方的な現状変更の試み
つまり大国が隣国に武力侵攻をしかけて、自分の領土にしてしまうという、国際秩序を完全に無視した蛮行だからです。もちろん力による一方的な現状変更の試みは国際法上の大罪です。これが認められると、軍事力のある国は、グイグイと隣の国に侵攻し、領土を広げるということが可能になってしまいます。国連はもちろん反対しますが、この無法者国家たちは独裁国家であるにも関わらず、国連安保理で拒否権を持つ常任理事国なので、やりたい放題です。
我々日本人にとって脅威なのはロシアよりまず中国です。尖閣諸島を始めとする日本の領土への、中国の公船による領海侵犯は、ほぼ毎日といっていいくらい行われています。海洋進出を目指す中国共産党は、南沙諸島などを勝手に軍事拠点化し、事実上の実効支配をするという方法で侵略をすすめます。台湾有事となれば、沖縄の嘉手納基地から米軍機が発進しますから、軍事拠点として沖縄も攻められる可能性が高いのです。
- 急激にきた新冷戦時代
中国が覇権主義国家であると分かったのは21世紀以降、いえここ10年たらずの事ではないでしょうか。アメリカも油断していたと思われます。天安門事件で自国のデモ隊を軍で鎮圧し、言論の自由がない国なのだな、人権が無視されているな、とは思いましたが、まあ共産主義国家の内政の問題だと放置しました。ダライ・ラマのチベットでの迫害も同様です。新疆ウイグル自治区での強制収容所問題で、さすがに国際的にも放置できない人権無視のジェノサイドだと気づき、ようやく国際社会が動き始めたのです。
このとき中国はGDP世界2位の、名実共にアメリカと並ぶ超大国になっていました。そこに君臨する習近平国家主席は、まさに現代の皇帝でした。もはや誰の言うことも聞かない独裁者だったのです。ロシアもプーチンが長期政権を握って独裁者になりましたが、だいたい長期政権というのは腐敗します。アメリカの大統領は任期8年まで。習近平もプーチンもそれを超えています。半永久的に政権を続ける模様です。
中国とロシアはそれほど仲のよい国ではありませんでしたが、ウクライナ危機でロシアに国際的な経済制裁を仕掛けたとき、中国はなんとロシアを助けてがっぷりとチームになったのです。反アメリカという理念で、この二つの独裁国家はつながりました。北朝鮮も入れても良いかもしれません。中国、ロシア、北朝鮮といった、反アメリカの独裁国家群と、西側の民主主義国家群であるNATOやG7(日本も含む)の真っ二つに世界は分かれ、地球上と宇宙に再び戦争の危機が発生したのです。まさに2022年新冷戦、つい最近の歴史です。
- どんな場合でも戦争は避けるべき?
2022年2月24日ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、世界中が動いて21世紀の新冷戦体制になりましたが、国際安全保障の理論で考えますと、全ての戦争はマイナスでしかない。いずれの国もコストを上回る利益を得ることはないことがハッキリしています。失われたウクライナ兵1万人ロシア兵5万人の生命と、破壊された市街地、ウクライナの民間人の命と経済、これを上回る利益はロシアにもありません。まともな頭があれば戦争など始めるはずがないのです。にも関わらずプーチンは軍事侵攻を始めた。これについては「プーチンの表情がおかしい」に書きました。
頭のおかしい指導者は、残念ながらいつの時代も世界に現れるようです。好戦的な独裁者であるプーチン、習近平、金正恩はそれぞれ核兵器を持っています。北朝鮮は今のところ領土拡大の野心はないようなので、ちょっとマシかもしれません。一帯一路の構想で世界制覇を狙っている習近平の中国共産党政権こそが、僕には日本が最も警戒すべき、恐ろしい存在に思えます。
今回の台湾周辺で行われた中国軍の大規模軍事演習も、きっかけはアメリカのペロシ下院議長が、台湾を訪れて蔡英文首相と会談したことに対する反発でした。アメリカの一人の政治家が、交友のある台湾の政治家1人を訪ねて行っただけです。そんな事ぐらいで、これだけの軍を動員して、東アジアの緊張を極限まで高めるなんて尋常ではありません。領海を侵犯しEEZにミサイルを着弾させる。このようなチキンレースを続けていると、偶発的な接触もあり得ますし、それは米中大戦にたちまち発展しかねません。
バイデン大統領は来日したとき、記者会見で「台湾が軍事攻撃を受けた場合、助ける気はあるか」と訊かれて「イエス」と答えました。これには中国が猛反発し、ホワイトハウスは「あくまで『一つの中国』を支持する」との火消しコメントを発表しました。台湾問題は現状維持が表向きの基本的スタンスです。
僕は中国が台湾を武力侵攻しても、日本には影響がないと思ってきました。そう思おうと努力してきました。しかし僕は日本以外の世界中に対して、たとえどの国であっても許せない事があります。基本的人権を無視する国は許せない。言論の自由、報道の自由といった、自由と民主主義の価値観を共有できない国とは、お付き合いしたくないのです。新疆ウイグル自治区の現状や、香港で一国二制度が崩れて民主主義が失われていく様を見ると、放ってはおけない正義感にかき立てられます。
よその国なんだから、放っておけばよい、という人がいます。でも僕は人として許せないものは許せない。我慢が出来ないタイプです。ウクライナで民間人が残虐に殺害されていくのに、何も手出しができない自分の無力さに絶望します。香港で学生デモが次々に拘束されリンゴ日報が閉鎖され、瞬く間に言論の自由が失われていくのを、目の当たりにした時は自分に何か出来ないか模索しました。何もできませんでしたが。
台湾でも同じ思いをするのかと思ったら、ゾッとしますが、香港と同じ轍を踏む嫌な予感がします。僕はかつての「世界の警察官」だった頃のアメリカ合衆国が、実は好きでした。傲慢で独善的で、それでも自由と民主主義を世界に広める使命感を強く持って、世界最大最強の軍隊を展開するアメリカ。日本に原爆を落とし焼き払ったが、戦後の焦土に民主主義の種を蒔いてくれたアメリカ。若き青年のような理想に燃えていたアメリカ。音楽も好きでした。USA for Africa。ハリウッド映画。僕たち世代はいくぶん洗脳されているのかもしれません。
今のアメリカはすっかりおじいちゃんです。自国の利益を守るだけで精一杯。台湾有事の際も動かないような気がします。沖縄の嘉手納基地が攻撃されれば、さすがに動くでしょうし、日本有事にも直結して集団的自衛権の行使となるでしょう。でも中国はみすみす米軍に出動のきっかけを与えるような真似はしないはずです。じんわりと台湾を絡め取って、ゆっくりと南沙諸島に勢力を広げていきます。日本など攻めている場合ではありません。何のメリットもないからです。それが中国という国のやり方だと思います。
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参考;軍事アナリスト小川さんの論評
https://note.com/pkutaragi/n/n778f0701fb03
ここまでの軍隊が接近しているというのは、偶発的戦闘の懸念があります。
桝本さん、コメント頂いていたのに2年も放置してすみません。😅
小川和久さんの記事、今読んでもなるほどと思いますね。僕は軍事アナリストではありませんが、漠然としたイメージで言うと中国はやはり大陸国家のように感じます。日本や台湾は海に囲まれた海洋国家ですし、七つの海を制覇した英国やその流れをくむ米国は、第二次世界大戦で双方に極めて大きな犠牲を伴いつつ日本と戦い、海軍力を磨いてきた歴史があります。
中国は今でこそ一帯一路と言って海洋進出が目立ちますが、ちょっと昔は空母一つ持っていなかった気がします。やはり中国は広大な大陸内での陸軍力に重きを置く国家ではないでしょうか。あくまでイメージに過ぎませんが。
まあ今は陸海空軍に加えて宇宙軍、情報軍と5軍体制ですから、何が起こるかわかりませんね。