2024年4月26日

ウクライナ危機でロシアが勝つ可能性

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2022年2月24日ロシアが隣国ウクライナに武力侵攻するという、現代史上類を見ない暴挙に出て5ヶ月が経ちます。21世紀にもなって、我々は19世紀的な戦争の時代に突入したのです。欧米諸国はウクライナに武器供与したり、ロシアに経済制裁をかけたりしていますが、一向に戦禍は止まらず長期化の様相を見せています。

このウクライナ危機は100パーセント善悪がハッキリしています。もちろんプーチンが全面的に悪い。この戦争に関する僕の正論は、4ヶ月前に簡潔な記事としてまとめてありますので、ぜひお読み下さい。

プーチンの表情がおかしい

この記事で全て語ったので、この記事をお読みいただいたという前提で、あらためて今、それがとんでもない楽観論であったと言わざるをえません。あの時の僕は、まるでハリウッド映画を見終わって、映画館から出てきたばかりの少年のようでありました。

「民主主義」と「自由主義」。これは全世界に共通の理念であって、もしあくどい「独裁主義」の国が現れても、最後は必ず「民主主義」が勝ち、自由と平和をもたらす。そのために国際連合もある。生まれてこの方、これを僕は信じて疑いませんでした。しかし常に正義が勝つとは限らない。悪が勝つこともある。

このことに思いを寄せたとき、僕は目眩がしました。現実を見なければいけない。たとえ不都合な現実であったとしても。そうすると少し冷静に情勢を見ることができるようになりました。

  • まず第一に、ロシアへの経済制裁は効いているのか

全く効いていない。そもそも経済制裁というのは、貿易によらなければ食料もエネルギーも手に入らない、日本のような国に対してこそ効果があるもの。ロシアは小麦も天然ガスも売るほどある。国際決済ができなくなったといっても、中国がぴったりロシアに寄り添ったことで、中国経由でいくらでも貿易はできる。天然ガスも中国が買ってくれる。ドル決済が人民元決済に変わっただけなのです。ロシア国内にマクドナルドの店舗は無くなりましたが、看板だけ変えてすぐにロシアブランドのハンバーガーチェーンが生まれました。AppleのiPhoneは買えなくなりましたが、HUAWEIのスマホがあります。

一方西側の諸国では、特にドイツや日本など天然ガスをロシアに依存してきた国は、たちまち深刻なエネルギー問題を抱えることになりました。ロシアに対する制裁なのに、反動でまるでこちらが制裁を受けているようです。

  • 第二に、国連は機能しているのか

今となっては国際安全保障として全く機能していません。第二次世界大戦後、世界の平和のために作られた崇高な理念の国際連合ですが、安全保障理事会常任理事国にロシア(加盟当時はソ連だった)と中華人民共和国(加盟当時は中華民国だった)の強国2国が拒否権を持って君臨しているため、たとえアメリカ、イギリス、フランスらが制裁決議案を採択しても、否決されてしまいます。北朝鮮の核開発に対する制裁も、中国はしばしば拒否しました。今回のウクライナ侵攻に対して、安保理の国全てが賛成しているのに、ロシアは一人拒否権を発動しました。

僕が最も憂いているのは、この形骸無実化した国連が、もはやかつてのように国際安全保障の役割を果たせなくなったということです。なんとかして立て直したい。どうやって? 常任理事国の拒否権をなくすという改革が考えられます。しかしこのレベルの改革をするには、方法は一つしか無いようにも思えます。独裁主義国家である中ロ北の同盟軍と、NATOを始めとする西側民主主義国軍が、まともにぶつかる世界大戦です。もちろん核兵器が出てきますから、ありえないことですが。

  • 第三に、プーチンが負けを認めることがあるのか

ロシアが負けたら、プーチンの命はありません。たとえ元通りドネツク州などすべての占領地をウクライナに返して「すまなかった。もう攻めない」と言ったところで、はいそうですか、とはならないのです。これだけの戦争犯罪に対する大きな償いが待っています。金で解決するという方法も無くは無いのですが、国内的にも地位は失墜しますから、やはり何らかの方法で命は失うと見た方が良いでしょう。歴史にも汚名を残します。プーチンはこの戦争に負けるわけには行かないのです。これは悲劇的です。プーチンはウクライナの一定部分を割譲支配し、これを以て勝利宣言といきたいところですが、ゼレンスキーは2月24日時点の状態まで、完全に領土を明け渡すことを条件としていますから、この平行線は交わることがありません。戦闘は永遠に長期化します。ロシアには長期化に備える物資がありますし、中国からの支援も期待できます。

  • では、どうしたら戦闘を終わらせることができるのか

僕は冒頭でも述べたように、ウクライナは1ミリたりともロシアに侵攻されるべきでは無い、という主義者であります。従って停戦合意で領土の一部でもロシアに割譲したなら、ウクライナの負け、ロシアの勝ちということになります。これは道義上認めたくありません。大国の「力による一方的な現状変更の試み」を一度認めると、中国は台湾を攻めてもいいことになります。沖縄を占領してもいいことになります。それを避けたいので、僕としてはウクライナに領土を死守して欲しい。正義と国際秩序の名にかけて。しかしプーチンが負けを認めることはない。うーん、困った。でも割譲か。意外な結末、歓迎されざる結末として、悪が勝つというシナリオもあるのではないか。認めようとする人はあまりいないでしょうけど、今日はあえて可能性として書いておきます。

どう見てもこのままでは紛争が長期化します。僕は実際のところ、NATOがどこまでやる気なのか、それにかかってくると思います。「世界の警察」の座から退いたアメリカは、兵器を提供するのはお手の物ですが、軍を動かそうとはしません。長い間アメリカは日本を守ってくれると勝手に思い込んできた僕たちは、バイデンさんガツンとかましてくれ、という気分になります。世界最大最強の軍隊アメリカ軍を中心に、今こそNATO軍が本気を出して短期決戦を決めることができるのではないか。甘い幻想です。

今、僕の中にはハリウッド映画を見終わったばかりの少年と、残念な現実をも見つめようとする大人の、二人が同居しています。今の僕たちにできることは、高騰するガソリン代などの燃料費、小麦を始めとする食品価格に、これもロシアへの対抗策だと思って耐え続けることだけなのでしょうか。あまりにも無力です。

「民主主義というのは、ただ黙っていて与えられるものではない。民主主義は当然のようにその場にあるものでない。闘って手に入れ工夫して作り上げていくものだ」とオバマ元合衆国大統領は言いました。今ウクライナで流されている血が、民主主義を守り抜くために流されたのだと信じ、せめて祈りを捧げたい。

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