がんばれダイアモンドプリンセス

2020年2月5日から、中国武漢に端を発する新型コロナウイルス感染者が、乗客の中に多数見つかったことを受けて、巨大客船ダイアモンド・プリンセス号は横浜港沖で14日間隔離されています。

楽しそうなクルーズ旅行者をやっかむ気持ちからでしょうか、巷では船そのものが「病院船」扱いされ、小金持ちが集まってるだけだ、自業自得、という心ない書き込みも散見するのに驚きました。

もちろん不自由を余儀なくされた乗員乗客たちには罪はなく、完全に気の毒な被害者です。ダイアモンド・プリンセス号にも罪はなく、船長はもちろん船会社や旅行会社にも何らかの落ち度があったわけではありません。

それなのに何故、僕たちは「ウイルスに感染した船」というイメージで、船そのものを害毒のように扱い、冷たい視線を浴びせるのでしょう。そんなことを考えていたら、「#がんばれダイアモンドプリンセス」というハッシュタグが盛り上がっていることを知らされ、ちょっと心が温まりました。

乗客2700人に、対応するクルーは1100人だと言いますから、ホスピタリティには問題ないでしょう。クルーは皆、乗客たちを退屈させないために、懸命の努力をしているようです。

アメリカの船会社で英国船籍のダイヤモンド・プリンセス号ですが、日本語のできるクルーを100人も用意して、日本品質のサービスを目指しているというから、ちょっと乗ってみたい気もします。

でも何故このような豪華客船が、新型ウイルスの感染にピリピリするのでしょうか。それは船という乗り物の宿命のようなものだ、と言えます。船はそのように作られているのです。

そもそも船の設計というものは、その排水トン数に対して、貨物船であれば1キログラムでも多くの多くの荷物を載せられるように、客船であれば1人でも多くの客を乗せられるように、と考えて作られています。

巨大豪華客船であっても例外ではなく、船上という限られたスペースを、いかに狭さを感じさせないデザインにするかを追求しています。デザインで頑張っていますが、一人あたりのスペースが実は狭い、という基本的な原理は変えようがありません。

今回の新型コロナウイルスのような、濃厚感染(咳やくしゃみの飛沫が、直接口や鼻に入ると感染する)の場合、この狭さが致命的になります。もちろんホテルのような広い高級客室もあるでしょうが、乗客が2.7人に対して1人という、多くのクルーたちには、狭いスペースしか与えられていません。

乗客たちも大変でしょうが、クルーはもっと大変でしょう。がんばれダイアモンドプリンセス、というメッセージは、このような状況下でも必死で乗客を守り、退屈させない工夫を凝らして頑張っているクルーたちに届けばいいな、と僕は思います。

そして感染してない大多数の乗客の方々には、旅程が変わってしまったのは不遇だったけど、できれば横浜沖での滞在を精一杯エンジョイしてもらいたいです。できる限りの食料と医薬品を大黒ふ頭からダイヤモンド・プリンセス号に届け、後々になって、横浜沖は楽しい旅のアクシデントだった、と語り草にできるようであって欲しいと思います。

そんなことを考えていたら、驚くようなニュースが飛び込んできました。

複数の政府関係者への取材によりますと、アメリカ政府が船内のアメリカ人について本国などに自ら移送したいと日本政府に伝えていることが新たに分かりました。移送についてアメリカ側は、日本への上陸は避けて在日アメリカ軍基地を経由して行うことなどを考えているということです。こうした要請を受け、日本政府も具体的対応について検討しています。

TBSより

こんな身勝手な脱出を画策するほど、アメリカという国は落ちぶれてしまったのか、と悲しくなります。トランプ大統領が変えてしまったアメリカとは、そういうものなのでしょう。この船はアメリカの会社の船です。まともな大統領だったら、船会社を支援して、乗員乗客すべてを救うことを考えるはずです。それなのに自国民だけ救出しようとするなんて、映画「タイタニック」を作った国とは思えない、浅ましい発想です。

せめて日本政府は、この世界の多民族が乗り合わせた旅客船に対して、十分な支援をして、「ヨコハマの14日間は楽しかった」と言われるようにしてもらいたいものです。僕は自分が船乗りの端くれだからかも知れませんが、海洋立国日本として、また観光立国日本として、今こそ対応が問われているように感じます。

アメリカの言うなりになってアメリカ人だけを脱出させるのか、がんばれダイアモンドプリンセス、と船全体を支援するのか、さあどっちだ?

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