イタリア式回転ドア内閣の愉快
イタリアの左右のポピュリスト、五つ星運動と同盟の連立政権が倒れるとすぐに、前者が臆面もなく天敵の民主党に駆け寄って手を結び、新たな連立政権が樹立されました。
不安定なイタリア政治は面白い。いや、興味深い。内閣がくるくる変わるのはとんでもない欠点だとばかり思ってきましたが、最近筆者はそれは欠点ではなく、イタリア政治の「特徴」なのだと考えるようになりました。
戦後のイタリアの内閣はひんぱんに変わることで知られています。平均寿命は一年未満、という時期が長く続きました。今もよく変わります。2018年に発足した五つ星運動と同盟の連立政権も1年と2か月で崩壊し、第66代ジュゼッペ・コンテ内閣が間もなく船出します。
今回の政変ではほとんど見られませんでしたが、政権交代の度に大きな政治空白が生じます。だがそれによってイタリア経済が停滞したり、行政が行き詰まったり、司法が恐慌をきたしたりすることはまずありません。
もしもそういう状況があったとするならば、それは政治空白や政治不安のせいではなく、イタリアの経済や行政や司法が「元々そういう風だった」からに過ぎません。イタリアではそれらは常に問題山積の領域なのです。
ひっきりなしにやって来るイタリアの政治不安は、政権交代が可能な政治体制だからです。政権交代が可能な分、権力につきものの腐敗が最小限にとどまる、というむしろ余得を伴うのがイタリアの政治の在り方だとも言えます。
腐敗が最小限にとどまると聞けば、政治腐敗にうんざりしている多くのイタリア国民は、あるいはデタラメをいうな、と怒るかも知れません。だがここでも筆者は確信を持って言えます。政治不安と政権交代がなければ、腐敗はもっとはるかに大きなものになっているであろう、と。
連立政権の一翼を担っていた極右政党同盟のサルヴィーニ党首は先月、閣僚でありながら内閣不信任案を提出して政権を崩壊に導きました。コンテ首相は、サルヴィーニ氏の行動は自身と党の利益のみを優先させる利己的で無責任な行動だ、と国会で厳しく指弾しました。
コンテ首相の批判を待つまでもなく、サルヴィーニ氏は内閣を倒して総選挙に持ち込みたい思惑を強く持っていました。副首相兼内務大臣の彼は、強硬な反移民・難民政策を実行に移して、地中海を介してイタリアに押し寄せるアフリカ・中東からの難民・移民を締め出しにかかりました。
その政策は移民疲れの激しいイタリア国民の支持を集めました。サルヴィーニ氏は急上昇する彼自身と同盟への支持率を背景に発言力を強め、ここ最近はまるで自分が首相だと言わんばかりの態度に出ることも少なくありませんでした。
しかし、議会解散から総選挙に持ちこもうと画策した彼の思惑は裏目に出ました。連立相手の五つ星運動が、政権が崩壊するや否や、なんと野党の民主党にすり寄って新たに連立を組もう、と持ち掛けたのです。
五つ星運動と民主党は犬猿の仲どころか、お互いが天敵ともいうべき相手同士です。五つ星運動は、先の総選挙で政権与党だった民主党を激しく攻撃して支持率を上げ、ついに第一党となって政権を勝ち取った、といういきさつもあります。
その五つ星運動が、臆面もなく民主党に言い寄ったのです。まさかの展開にサルヴィーニ氏は真っ青になり、自分を棚に上げて五つ星運動を「裏切り者!」とののしりましたがもう後の祭り。あれよという間に両党の連立協議が進行しました。
五つ星運動と民主党はほどなく合意に至り、コンテ氏を首班とする政権が再び誕生することになりました。同盟とサルヴィーニ氏は排除される形で下野。あっという間にお山の大将からただの人になってしまいました。
2011年、イタリア政界を長きにわたって牛耳ってきたベルルスコーニ元首相が失脚した後、イタリアではモンティ、レッタ、レンツィ、ジェンティローニという選挙の洗礼を受けない政権が続いてきまた。
そこに反体制ポピュリストの五つ星運動と反EU反移民を旗印にする極右の同盟とが、それぞれの極論をうまくオブラートに包んで選挙を戦い、政治不信に疲れきった国民の不満を吸い上げる形で支持率を伸ばして政権を奪取しました。
しかし、既述のようにそのポピュリスト政権も内部分裂であえなく終焉。結果として8年間で6つの政権が現れては消え、消えては現れるいつもの展開になりました。
そこで見えてくるのは、混乱の様相を呈したイタリアの柔軟な政治制度です。それは混乱ではなく、政権交代が確実に実行される、いわばイタリア的秩序の顕現なのです。
特に「まさか」と思われた左派ポピュリストの五つ星運動と極右ポピュリストの同盟による連立政権の樹立は、まさに「なんでもあり」がイタリアの政治の王道であり、政権の座に就く者はイタリア的なしなやかさで「なんとか」政権運営をしていく、という厳然たる事実です。
柔軟に政権交代が起こり、権力を握った者は誰もがそれなりに国の舵取りをこなしていく、という驚異的な現象がさりげなく出現するイタリアの政治状況は、全くもって面白く興味深い、と筆者は最近つくづく思うようになりました。
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