奇病難病・大人のADHD(注意欠陥多動性障害)

「♪買い物しようと街まで、出かけたら〜、財布を忘れて、愉快なサザエさん」という有名なテーマソングがありますが、僕は思わず「愉快なわけないやろっ!」とツッコんでしまいます。買い物はできないし、財布を取りに帰るのは面倒だし、まじめに考えれば不愉快なことに違いないでしょう。

さてこのサザエさん、年齢から考えてまだ認知症になるわけがないし、単にそそっかしい性格だとするには、うっかり度が尋常ではありません。財布を忘れるという注意欠陥だけではなく、野良猫を裸足で追いかけていくという多動性も持ち合わせています。

この歌詞が生まれた当時は病名さえありませんでしたが、今ならサザエさんはズバリ「大人のADHD」患者であると診断されるのではないでしょうか。

ADHDはその名の通り、注意欠陥と多動性障害を主訴とした深刻な精神障害のひとつです。具体的な症状は人によって異なるそうですが、以前は子供の発達障害として考えられてきました。忘れ物やうっかりミスが多い、授業中にじっとしていられず席を立つ、などがどうしても治らない場合にADHDと診断されてきました。

今、問題になっているのは子供ではなく、「大人のADHD」が深刻な疾病として明らかになりつつあることです。何を隠そうこの僕自身も55歳を過ぎてから、精神科医にADHDと診断され、治療を受けている患者であります。ですからリアルな患者の視点で、この難病についてお話できるかと思います。

この病気は死に至る病気ではありませんし、痛かったり苦しかったりすることもないので、さほど深刻には思われないかも知れません。しかし患者本人にとっては実に深刻な一面があるので、周囲の理解が少しでも深まればと僕は思います。

決して典型的とは言えないでしょうが、僕自身のケースについてお話ししましょう。僕は職場のロッカーの鍵を鍵穴に差したまま、忘れて帰宅してしまったり、忘れ物をしたり、注意欠陥の症状も頻発するようになったのですが、最も困らされたのは多動でした。

55歳を過ぎた頃から、職場での2時間の会議にじっと出席していることが困難になってしまったのです。なんとか努力で1時間くらいは我慢して座っていることができますが、それを過ぎるとそわそわして退室してしまいます。まあ世の会議というのはおよそ退屈なもので、それに耐えるのが大人というものですが、僕の場合は病的なレベルでそれが困難になったのです。

なぜ病的かというと、実は僕はADHDを発病するまでは、長時間の会議というのが苦手ではなく、むしろ得意技でした。30代、40代の頃は1回の会議に5時間も6時間もかけることは珍しくなく、結論の出ないような蛸壺会議に(決して良くないことですが)夜を徹して挑むこともしばしばありました。

それがある日突然、わずか2時間の会議でさえ集中力が続かない体質に変化してしまったのです。周囲から見ればワガママ。こらえ性がない。悪い評価しかなされません。これは社会人としてなかなか深刻なものがあります。

最初は睡眠外来で通っていた代々木の精神科クリニックに相談しましたが、うつ病と診断されて抗うつ剤を出されました。そんなもの効くわけがありません。やがて家の近所にADHDの専門医がクリニックを開いていることを知り、そちらに転院したところ、名医のドクターE先生がADHDであるとズバリ診断を下し、専用の治療薬を処方してくれました。

この治療薬が幸いなことに効力を発揮し、毎朝その薬を飲んでいれば2時間や3時間の会議はへっちゃらになりました。適切な処方というのが如何に大切か、思い知らされた体験でした。ADHDはなかなか寛解するのが難しいと言われていますが、有効な薬というのが存在するのが唯一の救いだと思います。

うっかりミスが多い。忘れ物をよくする。集中力が続かない。それがどんなに努力しても改善されない時は、一歩引いてADHDではないかと疑ってみるのもひとつの手段です。そんな時は専門医の診察を受けることをお勧めします。

精神科の疾患は、性格的なものなのか病的なものなのか、境目が一見して判断が着きにくいように思われています。僕が思うにその境目を判断する基準は、第一に本人がどんなに努力しても解決しない、第二に環境が変化しても解決しない、その時は病気であると判断すべきだと思います。

例えば僕はよく鬱状態になりますが、宝くじで1億円当たったりしたら、いっぺんに躁状態になるでしょう。そのように環境で解決するものは病気ではありません。本物の鬱病とは、例え宝くじで1億円が当たろうとも、明日地球が終わってしまうような気分になる、それこそが病気であるという基準だと思うのです。

ADHDも、まずは精一杯努力をしてみて、環境を改善してみて、それでもなお解決しなかったら迷わず専門医の扉を叩くべきでしょう。そして病気と診断されたら、周囲からの理解と適切な服薬が不可欠です。周囲からの理解がなかなか得られない病気だけに、少しでも多くの人に知ってもらいたい。そんな思いで今日はこの難病について書いてみました。

同じ悩みを抱える皆さん、病的だと感じたら周囲の目を気にすることなく、遠慮せずに専門医の門を叩きましょう。周囲にこの病気の患者さんがいる皆さん、これが脳の機能障害だということをしっかりと理解し、喘息など他の病気と同様に温かい目で見守ってあげて下さい。そしてこの病気に対する差別と偏見を、いつの日かこの世の中から無くしていければと思います。

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