玉城デニー氏の圧勝が見せた民意の意味する真相とは?

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9月30日(日)は沖縄県知事選に祈りを込めていました。テレビはおりしも台風24号のニュース一色。僕自身は品川区長選挙に投票に行ったのですが、気持ちは国政選挙並みに政界に影響力のある沖縄県知事選で、玉城デニー氏に一票投じたい気分でした。もちろん沖縄県のことは沖縄県民の決めることであって、東京からどうのこうのいう問題ではありません。それでも沖縄の米軍基地の問題は、国民的課題であり、沖縄県民がきちんと意思を表示できるかどうかは、日本の民主主義の行く末を占うものだったと言えます。

対する自民、公明、維新、希望の4党が推薦する佐喜真氏には、本土から政府与党が総力戦の覚悟で臨みました。自由民主党からは菅官房長官という政府首脳が応援に駆けつけ、今や自民党のアイドル小泉進次郎氏まで投入して、最大限の選挙戦を繰り広げました。これほどまでに力の入った地方選挙はいまだかつてありません自民公明が全力を尽くしても負けたと言うことは、政権与党としては厳粛に受け止め、次回の参議院選挙に向けて対策を考えなければなりません。ヤマトンチュ(本土)からの出しゃばった介入が、ウチナンチュ(沖縄県民)には、かえって反発を招いたとも言えそうです。

玉城デニー氏は自由党の幹事長であり、立民、国民、共産、社民といった野党すべてが、足並みを揃えた見事な野党共闘を実現させました。今回の野党共闘の成功は、今後の国政における野党共闘のモデルケースとして、必ず応用できるはずなので、野党各党の党首はしっかり記憶に残すべきです。玉城デニー氏はヤマトンチュ(本土)の意向ではなく、地元沖縄の地域住民にしっかりと軸足を置き、翁長前知事の遺志を受け継いで、辺野古基地移設に反対する立場を明確にしました。それがウチナンチュ(沖縄人)の心を掴み、選挙での圧勝につながったことは、間違いありません。

翁長氏の弔い合戦という、追い風が吹いた側面はあるでしょう。それだけ辺野古基地建設反対を主張する、翁長前知事の人気は高かったということは言えます。9月16日に引退した、沖縄出身のカリスマ歌姫である安室奈美恵さんは、自らのブログに「沖縄の事を考え、沖縄の為に尽くしてこられた翁長知事のご遺志がこの先も受け継がれ、これからも多くの人に愛される沖縄であることを願っております」とハッキリ書いています。そのブログは今は終了していますが、投票日の9月30日までは公開されていました。芸能人の言動が選挙に影響したとは、ただちに考えにくいのですが、これは沖縄県民の素直な気持ちの象徴だとは言えるでしょう。

ただ米軍基地の沖縄からの撤退、もしくは沖縄県外への移設は、沖縄県民が反対したからと言って、簡単に実現できるものではありません。というか不可能です。米軍基地の問題は国政レベルの、いや国政レベルを超えた、アメリカ合衆国と日本の外交レベルの問題だからです。日米安保条約に付随する日米地位協定によって、米軍は日本中どこでも必要とあらば米軍基地にし、自衛隊を指揮下において動かすことのできる密約を結んでいるのです。日本は1952年にGHQの占領下から離れ、独立国として歩み始めたと教科書には書かれていますが、こと米軍に関しては、日本は米国の属国同然の立場が、今でも変わっていません。

鳩山由紀夫氏が首相だった時に、沖縄の米軍基地を移設することを公約にしていました。「最低でも県外に」という発言が、沖縄県民につかのまの希望をもたらしました。それはそうです。総理大臣がハッキリそう約束してくれたのだから、実現するに違いないという期待を寄せるのは、沖縄県民にとって当然の話です。鳩山由紀夫元首相が失敗したのは、日米地位協定に基づく日米合同会議に、出席させてもらえないまま、独断で基地移転を明言してしまったことにあります。鳩山氏がこの話を米国側にすると、案の定ガツンと否定されました。鳩山氏は前言を撤回し、鳩山政権は嘘つき政権という汚名を着せられることになりました。

玉城デニー氏は、この苦い経験をよく知っています。さらに自らが米兵を父親に持ち、苦労してきたという、まさに歩く日米関係とでも言うべき人物です。その経歴を生かし、その上でなおかつ沖縄に米軍基地は要らない、と言うのなら、その言葉には説得力があります。半分はアメリカを意識し、半分は沖縄人を意識する、玉城デニー氏独自の価値観は、現在の日本政府をもしのぐアイデアを出してくれるのではないかと、密かに期待しています。

沖縄は、太平洋戦争中にアメリカ軍に上陸されて、白兵戦の犠牲になった唯一の地域です。その時点で既に本土とは価値観が違います。学童疎開をしていた対馬丸を撃沈されて、多くの犠牲者を出した記憶も消されることはないでしょう。太平洋戦争で捨て駒にされたという歴史は、沖縄人の間に脈々と流れています。戦後も、琉球人(ウチナンチュ)が本土から来た日本人(ヤマトンチュ)によって、方言を禁じられて標準語を強制的に教え込まれ、伝統文化を軽んじられた、同化政策の犠牲になった経緯もあります。こうした歴史を踏まえつつ、今なお同じ日本人として、米軍を押しつけられている現状は、我々本土に住む人間にも共通の課題です。

本来は日本の中央政府こそ、日米地位協定に毅然として立ち向かわなければ、日本の真の独立はありえません。しかし残念ながら今の安倍政権に、そのような気概を求めることは、とうていできません。ならば沖縄が率先して、真のアジアの平和と安定した安全保障に、道筋をつけるリーダーシップを発揮するのもありでしょう。玉城デニー氏の実力は未知数ですが、僕は大いに期待をしたいと思います。

いろんな顔と心って
世界じゅうに溢れてるね
敵味方に分かれ
殺し合いをしているね

そういう事でしか
確かめ合うことができなくて
愛おしい人大切な
何もかも守れなくなるよ

(Don’t wanna cryより)

安室奈美恵さんは18歳の時に、そう歌っています。彼女がその年齢で、どれほど歌詞の意味を理解していたかはわかりません。でもひいき目にみると、沖縄人は平和を愛する人々であり、沖縄は文化の花咲く地域であると信じることができます。

沖縄がぐんぐん時代をリードし、本土の人間はそれを後追いしていく。そんな構図が見られたら、非常に面白いことになると思います。CSJではオキナワ・ウッドストックを企画しています。あらためて玉城デニー氏の沖縄県知事選圧勝のニュースを受けて、沖縄県の人々に対して、僕は心からエールを送ります。

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