子役タレントについて視聴者は無知すぎる
先日フジテレビで放送された池上彰さんの番組で、子役を使ったやらせがあったのではないかというネット上の炎上があります。7日放送のフジテレビ系「池上彰スペシャル 池上彰×子供×ニュース 痛快ギモンに大人も納得SP」に出演していた子供たちに、子役が混じっていたとネット上で批判されている件です。これに対してお笑い芸人のウーマン村本さんは、この炎上に対して、
と一笑に付しています。僕も村本さんの意見に基本的に同意です。そもそもテレビ局のスタジオに、ガチで普通の小中学生を70人集めたら、大人たちの多さや照明やカメラといった雰囲気にのまれて、みな下を向いて黙ってしまうでしょう。とても子供が発言なんかできるわけもなく、テレビの番組制作自体がストップしてしまいます。このような収録には、スタジオの雰囲気やカメラに慣れた子役を使うのは当たり前なのです。
こういうテレビの制作現場では当たり前の常識を、無知な輩がネットで騒いでいるとして、ウーマン村本氏はバッサリ切ったわけですが、元祖子役を使った番組のプロデューサーである僕は、視聴者との距離をつめるために、もうすこし丁寧に説明しておきましょう。
みなさんは「子役」と聞くと、子供だけど芝居や演技ができる役者、というイメージを持つことが多いと思います。もちろん一部の天才的な子役、たとえば朝ドラ「半分、青い。」に出ているカンちゃん役の山崎莉里那ちゃんなどは別格ですが、一般に劇団東俳や劇団ひまわりなどに所属しているほとんどの子役たちは、芝居も演技もろくにできません。
0歳児の赤ちゃん子役というのもいます。この子が劇団から子役に選ばれた理由は、他人の大人に抱かれても泣かないこと。それだけです。両親と離れて大勢の大人たちの間に飛び込んでいき、スタジオのカメラにも照明にも萎縮することなく、大人でも緊張するスタジオ本番の時に、自然に振る舞い日本語でしゃべれること。これだけが子役の必要十分条件だと言っても過言ではありません。男の子の子役の中には、人見知りを克服させるために、親が劇団に入れて教育している、なんて例もあって、演技どころではない子供もいました。
そんな子役を300人以上をオーディションをして、その中から条件に合った子を探す仕事は、なかなか大変なものでした。僕はそれを何度も繰り返してきました。「天才てれびくん」の時には子役の必要十分条件を満たした上で、ルックスに花があり、歌や芝居が多少できそうな子を選びました。一転して「週刊こどもニュース」の時には、必要十分条件を満たした上で、頭の回転が良く好奇心が強い子、考え方が無垢な子を選びました。コンピューターに例えると、プロセッサの性能が良くハードディスクが空っぽな子が適していると考えたのです。もちろん後者の方は完全なアドリブでした。
9月7日放送のフジテレビ系「池上彰スペシャル」は、スタジオに集めた子供70人のうち、20人が子役プロダクションに所属していたと報じられています。おそらく残りの50人は、お地蔵さん、だったことでしょう。子役たちに対して「やらせ」があったのかどうかは僕にはわかりませんが、いわゆるお芝居のような「やらせ」はなかっただろうと思います。もちろん聡明な子供が「良い質問」をしようとして、知恵を絞ったということは大いに考えられます。それは大人のタレントが池上彰さんの番組で聞き手になっているときと、全く同じ構造で「良い質問」をしたいのです。そして編集の段階で、数ある子供とのやりとりの中から、面白いと思ったものだけをセレクトしているのも、当然の編集権です。
それらは「やらせ」とは言いません。「やらせ」の言葉の定義を、完全に間違えています。「やらせ」とは出演者の意に反して、演出側が作ったセリフをしゃべってもらうことです。その意味では今回は「やらせ」はなかったと僕は考えています。ただ子供を使った番組作りは、非常に難しいのです。子供は「イノセント」の象徴のように画面には映りますし、実際の子供は完全に「イノセント」ではありません。そのあたりをどのようにこなしていくか、プロデューサーとディレクターの腕の見せ所です。番組に出演する子供たちとの信頼関係をいかに構築するか、も一つの重要なポイントだと僕は思います。子役タレントについてスタッフも無知すぎる、と言うべきでしょうか。
「週刊こどもニュース」では、いったん出演者の子供を決めたら、3年間にわたって毎週の生放送を共にします。そこには強い信頼関係が生まれ、アドリブでも自然と適切な質問になるように、子役たちは3年かけて成長していきました。疑似家族は本当の家族のようであり、番組はそんな子供たちの成長記録でもありました。このような番組は一朝一夕にはできるものではありません。今回のフジテレビの特番は、一回限りの単発番組でした。しかも録画でした。単発番組でむりやり「週刊こどもニュース」の真似をしようと考えたのが浅はかだったと、僕には思えてなりません。プロデューサーとディレクターの演出の技量不足が招いた、とんだ疑惑だったと言わざるを得えないでしょう。
フジテレビは池上彰さんの番組で、3年前にも「ねつ造」の問題を起こしています。私もブログに書きました。
僕としては先輩である池上さんにも、ご注進ながら、出演する番組の局とスタッフを厳選したほうがいいですよ、と申し上げたいところです。
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