立憲民主党は二大政党制へ王手をかけている?

自民党は圧勝したなどと浮かれている場合ではありません。そもそも二大政党制を目指した小選挙区制ですから、得票数にはそれほど差が無くても、僅差で小選挙区を制した自民党が結果的にかなり多くの議席数を占めるのは当然のことです。小選挙区制とは、ウィナー・テイクス・オール(勝者総取り)のシステムだからです。マスコミに踊る「圧勝」という表現には意味がありません。小選挙区制ではどの政党が勝とうと、常に圧勝に決まっているからです。

選挙で示された民意とは、選挙後の獲得議席数のみに現れるのではなく、各政党が選挙前と選挙後を比較して、どれくらい議席を増やしたか、あるいは減らしたかという増減率に現れます。増減率とは、選挙後の議席数を、選挙前の議席数で割った、パーセンテージです。国民の期待がどの党に集まり、どの党を押し上げたのか、それが一目でわかるのがこの増減率なのです。引用する適切なグラフがなかったので、NHKのデータを元に僕が自分で作成しました。

ご覧の通り、自民党の議席数は選挙前284議席、選挙後284議席と同数。つまり増減率は100パーセントです。国民の期待は選挙の結果、増えも減りもしませんでした。社民党も選挙前2議席、選挙後2議席と同数。同じく国民の期待は、増えもせず減りもせず、ということになります。立憲民主党を除く他のすべての政党は、選挙前より選挙後の方が議席を減らしています。100パーセントに満たないと言うことは、選挙の結果、国民からの支持が減ったということになります。

もちろん公明党が85パーセントと減ったのは、自民党と選挙協力をして、候補者を立てずに議席を譲ったという事情もあります。同様に共産党が57パーセントと減ったのも、立憲民主党と選挙協力をして、同じ選挙区で競合しないよう候補者擁立を断念したという、野党連携の意味合いもあります。あるいは新党として200人以上の候補者を立てておきながら、50人しか当選しなかった希望の党の不人気ぶりは、88パーセントという数字以上に、小池百合子党首の責任が重いという見方もあるでしょう。

しかしこれらの要素を差し引いても、全政党の中でなんと唯一、立憲民主党だけが100パーセントを越え、367パーセントという驚異的な増減率で圧倒的な国民の支持を反映しているのです。

結党からわずか3週間で、15人の議席を55人に増やして野党第一党に躍り出た、立憲民主党の躍進ぶりは、グラフを見ると増減率として一目でわかります。これが今回の選挙の真相であるわけですが、なぜ今、立憲民主党が注目されているのか。それは枝野幸男代表が現実的で明確なビジョンを持ち、今後は政権与党を目指していくという、野党とは思えないくらい将来を見据えた信念の男であったという点にありそうです。枝野幸男という男は、巷で言われているようにリベラルの受け皿を作った男というのではありません。具体的に日本の将来像を長年考え続けてきた、想像よりもはるかに大きな男だったようです。

僕自身も驚かされた、選挙期間中10月9日に収録された枝野幸男代表のインタビューを、時間があればお聞き下さい。17分のハイライトバージョンの動画です。

この動画は今のように、議席数を3.7倍に伸ばすという大躍進の結果が出る前の、まだ立憲民主党が誕生してわずか一週間の時点の収録です。初の選挙に立ち向かう新党として、まだ先が全く見えない状況での、不安の中にある一人の党首の貴重な決意表明です。

そこには増減率が367パーセントという驚異的な躍進を見せた立憲民主党にとって、忘れてはならない初心と決意が込められています。このハイライトバージョンの動画では十分に語られていませんが、枝野代表はハッキリと二大政党制を意識し、ポスト安倍政権へと着実に歩んでいく具体的な戦略を既に持っていることに驚かされます。

テレ東の選挙特番では、「政治記者に聞いた次期首相になって欲しい人物は?」というアンケートがありました。そのベストテンの中に、小泉進次郎氏、石破茂氏といった自民党人気議員に混じって、唯一野党から上位に名前が挙がったのが、枝野幸男氏でした。彼の人気が一時的なものではないことを物語っています。

3.11の時に当時の官房長官として、不眠不休の記者会見を続け、「#edanonero. 」(枝野寝ろ)というハッシュタグがツイッターを賑わしたほどの、危機管理能力には定評がある人物です。今回も「#枝野立て」というハッシュタグのツイートに背中を押されて党を立上げましたが、立憲民主党のツイッターアカウントをフォローするユーザーは、わずか3週間で自民党を抜いて18万人を超え、一位に躍り出ました。

右派と左派、保守とリベラルという従来の分類が通用しなくなっている現在、自らを「保守の中にあるリベラル」と位置づけ、「右でも左でもなく前を」を合い言葉に「トップダウンの政治・経済ではなく、ボトムアップの政治・経済に」と主張するポリシーは、枝野幸男代表ならではです。枝野氏はこの理念に同意してくれる仲間なら、与野党を問わず、自民党の議員であっても、ともに手を携えていくと語っていました。

今後の衆議院がどのように再編されるかは、希望の党の今後が見えない中、様々な可能性が考えられます。立憲民主党が予想外の発言力を持ち、与党を含む他党との政策協議に影響を及ぼすかもしれません。しかしまずは枝野氏のこのポリシーを、彼が率いる立憲民主党の党員たちが十分に理解し、二大政党制への道を着実に歩んでいくべきでしょう。

立憲民主党は生まれてからまもない政党であり、今回の人気も枝野人気に頼った判官びいきのバブルです。その人気に見合うだけの中身が充実しているかと言えば、まだまだこれからという未熟な政党です。これまでの三週間は選挙戦に精一杯でゆっくりと政策について議論する時間もなかったわけですから、議員たちはこれから改めて一から具体的な政策論議に入り、党としての骨格を作り上げていくことになります。

今の人気に諸手を挙げて浮かれるのではなく、地道に議論して骨太な背筋の通った現実的な政策を練り、着実に実績を作り上げて政党としての存在感を固めていくべきです。その試練を踏まなければ、自民党に対抗できる政党にはなり得ないでしょう。

この党が目指すのは大きな野党ではなく、ポスト自民党の政権与党です。慢心することなく、367パーセントという勢いを持ってすれば、意外と目標は近いかも知れません。

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4 comments to “立憲民主党は二大政党制へ王手をかけている?”
  1. 拝見しました。希望が野党第一党じゃなくて喜んでいます。

    今度の選挙は色々見方はありますが、選挙制度の見直しも示唆したんじゃないかと思っています。

    自民の議席数・・
    比例区は33%獲得投票数で66議席。
    小選挙区では48%の獲得投票数で74%の議席数
    全体での議席数は6割

    比例区では3人に1人しか投票していないのに全議席は6割ですからね・・
    小選挙区のおかげで自民党は多数派を形成してるだけで、「これが民意だ」とは言いがたいですね。(まぁ前に民主党が政権をとった時も似たり寄ったりの数字でした。)

    多様化してる国民の意思を※「政権交代可能な制度」という括ってしまうのには矛盾があるんじゃないかと思ってます。やっぱり民意を反映させてこその制度じゃないとダメだと思うんですけどね。
    (朝日新聞)自公で2/3は多すぎるという世論調査をみても、選挙制度を「民意が反映したもの」に変える必要はあると思います。

    マスコミももうちょっとこの制度の矛盾を報道してくれないと・・。
    勝った、負けた・・議席数だけで判断しちゃダメですね。

    ※「政権交代可能な制度」といいながら2003年の総選挙では民主が比例第一党だったにも拘らず、自民党が政権を担いました、これも矛盾ですね。だから小選挙区制は「政権交代可能な制度」とも言い難いですね。

    • 日本の小選挙区制は、民意をきちんと反映していない、大きな問題があると思います。しかし自民党にとっては有利な制度ですので、改正されることはないでしょう。二大政党になり得る勢力を作って、もう一度政権交代をするしかなさそうです。

  2. 現行選挙制度のもとでは、選挙区の有権者に直接訴求する力が改めて問われた選挙でした。
    小選挙区という「局地戦」で強くなければ、政策は有権者の心には届かないと言うことです。
    局地戦の巧者の集まりが自民党であることは論を待ちませんが、注目すべきは、今回政党の協力なしに無所属で当選した野田佳彦や、岡田克也、山尾しおりの旧民進党議員です。民進党(民主党)であったこと自体が逆風であったのに、それを跳ね返す局地戦の強さは尋常ではありません。よほど地元選挙区の有権者に「どぶ板を踏む」活動をしていたのでしょう。
    彼らに学ぶことは多いと思います。
    参考;田中角栄氏が初めて立候補する石破茂氏に贈った言葉。
    「きみ、ちゃんと目を見ながら両手で握手した人しか票を入れてくれないんだよ」

    • 無所属で当選した議員たちには、僕も一目をおいています。枝野人気で立憲民主党の比例区から当選した議員たちと比べると、雲泥の差だと思います。

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