小池百合子の野望と誤算

小池百合子は日本初の女性首相を目指している。ただそれだけ」9月30日に、ある信頼できる筋から、そんな情報が入ってきました。たしかにそう考えると、今回の2017年衆院選でのゴタゴタを、全てスッキリ説明することができます。新党「希望の党」の立上げ、民進党との合流、合流に際しての候補の選別、排除、踏み絵、持参金、そして枝野幸男氏による新党「立憲民主党」の立ち上げ。これらの一見めまぐるしく動いたニュースも、この観点から見ると一貫した展開として理解できます。

本日10月3日の段階では、小池百合子氏は出馬しておらず、出馬の意図もないと本人がコメントしていますし、これから公示日の間に彼女が立候補するかどうかはわかりません。彼女は都議選で見せた自分のカリスマ性を自覚しています。もりかけ問題等で安倍政権に嫌気がさしている国民の感情を受け止め、首尾良く新党の人気が沸騰し、ポスト安倍内閣として政権与党になる目処がついたら、その時に党首として出馬するつもりだったのです。東京都知事という要職を投げ出すわけですから、国民に請われてやむなく国政に出た、という形に持って行かなければなりません。

小池百合子氏の「ただの国会議員ならもういい」という発言が新聞に載りましたが、僕にはそれは当然でしょう、と感じられました。国会議員としてのキャリアも長く、防衛大臣や自民党党三役も経験した彼女にとって、上を目指すなら総理大臣しかあり得ません。ただの国会議員をやるくらいなら、東京都知事の方がはるかに大きな権力をふるえます。だから今は出馬せずに様子見なのでしょう。

彼女は自由民主党に大差で勝利した、この夏の都議会選における「都民ファーストの会」躍進の記憶がまだ新しく、その勢いを持ってあわよくば国政でも自民と希望で保守の二大政党制に持ち込もうと考えたのです。「希望の党」は、都民ファーストの夢よもう一度、というのが、本当の動機であり、その先には小池百合子氏のために総理大臣の椅子が用意されているべきだったのです。

もともと「希望の党」には全国組織もなければ、選挙資金もありませんでした。所属する政治家さえわずかしかいませんでした。小池百合子氏のカリスマ性のみが頼りという、看板だけの政党だったのです。

そんな希望の党が目をつけたのが民進党だったのです。全国に広がる最大の労組「連合」の票田を持ち、100億円とも言われる政党助成金などの資金もありながら、民進党には民進党という看板のイメージが悪くて、選挙に苦戦しそうな候補者が大勢いました。人と金はあっても、看板にカリスマ性がない民進党。カリスマ性を持つ看板のみがあって、人と金のない希望の党。この二つの党の組み合わせは、素晴らしく見事なマッチングであるかのように、一部のマスコミは書き立てました。

そして小池百合子氏から、民進党が希望の党に合流するのはいかが、という話を持ちかけられた民進党の前原代表は、パクッと食いつきました。それが毒饅頭であるとも気づかずに。

9月28日の午後、民進党は両院議員総会を開き、前原代表の提案を全員一致で承認しました。その提案とは次のようなものでした。

  1. 民進党は今回の公認の内定を取り消す。
  2. 立候補予定者は「希望の党」に公認申請を出すものとする。
  3. 民進党は候補者を立てず、全力で「希望の党」を応援する。

この時、前原氏は民進党からの候補者は、全員が希望の党の公認を受けられる、という話だと解釈していました。合流するというのはそういう意味だと受け止めていました。民進党の議員たちもそう信じていました。ところが小池百合子氏は「民進党の候補者全員を希望の党で公認する気はさらさらない」と言ってのけたのです。民進党候補者の間に動揺が走りました。前原代表はあわてて小池百合子氏のもとへ駆けつけ、話が違うではないか、希望する候補者全員を公認してくれ、と交渉します。しかし小池氏はけんもほろろ。とりつくしまもありません。

ここまで読んで下さった方はもうお気づきでしょうが、僕はここまで政局の話はしてきましたが、政策・理念の話は少しもしていません。僕は政治家じゃないので、政策・理念の話は後回しでも許されますが、政治家がそれを後回しにすると、とんでもないことになります。小池百合子氏は「政策・理念が一致するかどうか、一人一人私が選別して、公認するかどうかを決める」とキッパリと言いました。たしかに正論ではあります。国会で真っ二つに意見が分かれ、議論になっている大きな政策課題については、一つの政党の中で分離しては困りますから一致した方針を出すべきでしょう。さらに彼女が民進党の候補者に課したのは、リベラル派は「排除」するという方針と持参金でした。

小池氏が候補者に希望の党の公認を与えるにあたって、確認した主な政策・理念は次のようなものです。

  • 沖縄の辺野古基地建設に賛成
  • 集団的自衛権を含む安保法制に賛成
  • 憲法改正に賛成

僕はこれは自由民主党が今まで言ってきた政策・理念とピッタリと一致すると思いました。そして民進党が主張してきた市民目線の政策・理念とは逆の、トップダウンそのものです。俗に言う「小池百合子の踏み絵」ですが、ここで宗旨替えをしなければ希望の党に公認してもらえないとなると、頭を抱える候補者が続出しました。無所属で立候補する人、宗旨替えして希望の党へ公認申請を出す人、迷っている人、様々です。ちなみに首相経験者や、民主党時代の閣僚経験者などベテラン候補は、希望の党としては公認しない方針でした。

彼女が候補者に署名を求めた、実物の政策協定書があるので、ご覧下さい。

「党の指示する金額を党に提供すること」まるで金額の書いていない、ぼったくりバーのようです。

ここまでは小池百合子氏の筋書き通りでした。僕は最初、自民党の政策と全く同じだったら、何も野党として国政選挙で民意を問う必要がないじゃないか、と不思議に思っていました。あるいは自民党と対決する大きな野党を作りたいのなら、大同団結して民進党の前議員を全員候補者に入れた方が、総得票数が増えて得策なのに、とも思いました。なぜ彼女が厳密に政策・理念で「選別」しているのかわからなかったのです。でも彼女が総理大臣の座を狙っているとすれば、拘る理由が実によくわかります。

大きな野党となるだけなら、ここまで拘る理由がありません。でも政権与党となると、例えば沖縄の辺野古基地問題にしても、米国との関係に自分が直に向き合わなければならないわけです。民主党時代の鳩山元首相のように、国民には米軍基地を建設しないと約束しておきながら、アメリカ合衆国にガツンと言われると、ころりと政策を転換するというみっともない真似はできません。安保法制もアメリカがらみです。つまり誰が政権を取ろうと、与党となり首相となるからには、選べる選択肢が自ずと決まっているわけです。

これら全ては、小池百合子氏が実は日本初の女性首相の座を狙っている、という理由で説明がつき、なるほどと思いました。保守の二大政党制という形に持ち込めなくても、自希公連立政権という形に持ち込み、キャスティングボードを握るという手もあります。安倍首相や菅官房長官、自民党の石破茂氏なども「基本的に我々と同じ考え」とコメントしているとおり、政策・理念については自由民主党と同じです。あるいは小池氏は核武装論者なので、よりタカ派かも知れません。希望の党については、これで納得です。

それでも僕としてはなんか違和感がありました。運動会で言えば、白組さんと白組さんが玉入れ競争をしているような光景が目に浮かぶ、そんな違和感です。どっちに入れても結局は白組さんの勝ちではないか。赤い球を持った人は、どの籠に球を放り込んだらいいのかわからず困るだろう。という心配がありました。例えば、今の憲法を守りたい人は、どこに票を入れるのだろうという心配です。

それともう一つ、希望の党に公認をもらえない人はどうするのか。小池百合子氏の「選別」でバッサリ切られた候補者は、そうですか、とすんなり引っ込むのだろうか。小池百合子氏は自分が総理大臣になれるかなれないかだけに興味があり、自分がバッサリと切り落とした、「排除」した政治家たちが刃向かってくることは、全く想定していない。そこに彼女の誤算があったと思います。

10月2日午後5時、民進党代表代行の枝野幸男元官房長官が、新党「立憲民主党」を立ち上げたのです。小池百合子の踏み絵を踏まなかった人、踏んだけど戻ってきた人、などなど無所属でしか出馬することができない状態で、それでも己が信念を曲げることのなかった政治家たちが、枝野氏のところへ続々と集結しているようです。安倍政権にストップをかけたい国民の票は、希望の党ではなく立憲民主党へと流れるでしょう。

枝野氏と言えば3.11の大震災の時に、官房長官として不眠不休で朦朧となりながらも連日記者会見に立ち、ツイッターで「#edanonero」(枝野寝ろ)というハッシュタグがついたのが記憶に残っています。今回はツイッターで「#枝野立て」というハッシュタグが盛り上がりました。枝野氏が意外に人気があるので、小池氏は総理への野望が萎えてしまうかも知れません。安倍政権でOKな人は自民党に投票するでしょうから、明確な反安倍政権である枝野氏の登場により、反安倍政権の票を期待していた小池氏の立ち位置は微妙になってきました。

運動会で言えば、これでやっと赤い球を持った人にも投げ入れる新しい籠が用意された、という気がして、僕には非常に新鮮です。自由民主党、希望の党、立憲民主党の三つ巴になってくれれば面白いと覆います。白組さん、白組さん、紅組さんと三つ籠が用意されました。世論調査で「特に決めていない」と答えた浮動票は、いったいどこに動くのでしょうか。

少子高齢社会、格差社会が進む今の日本において、国民みんなが参加できる社会、人権が守られる社会、真に自由な社会を作り上げて行くには、自分の選挙区でどの政治家に投票すればいいのか。皆さんそれぞれが自分の信念に基づいてよく考え、自分の考えに近い政治家、自分の考えに近い政党を選んで下さい。なにより必ず選挙に行って下さい。

※日本共産党、公明党については、安定した固定票が見込まれるので、今回は触れませんでした。

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One comment to “小池百合子の野望と誤算”
  1. 小池百合子総理(仮)と安倍晋三総理は、多分、政治手法(トップダウンとお友達がすき)という点では同類のような気がしますけどね。
    選挙結果によってはあっさり自公と連立もあると思います。そうなると、現在の安倍自民党への批判票として投票した有権者は「目を宙に泳がせてぽかんとする」ことになりそうです。
    その点では「維新」も同じなので、石原慎太郎・橋下徹につづく「亜流(劣化コピー)」とみるのがよかろうと思います。

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