改憲の意図はIS対策(地上戦)でない危険性について

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kenpou9jyou
先日、法律、戦争の歴史の詳しい杉江さん桝本さんが(IS対策と照らし合わせ)、現行憲法の第9条に関する記事を投稿されました。大変まっとうな意見だと思います。懸念されるのは、安倍首相の一番の目的である憲法改正の意図と(最終的には第9条2項削除、対米、対中関係悪化)と、現在の官邸は世界中を脅威に陥れているIS対策への関心がなさそうな事です。
まず、安倍首相は立憲主義を守れていません。ここが注意すべき点①です。
「立憲主義と日本国憲法 第3版」高橋和之、有斐閣、P62より抜粋
政府が9条を非現実だという世論の支持をよいことに歯止めのない「解釈改憲」の道を歩んでいる。これ以上「解釈改憲」を許すことは 立憲主義の基礎を切り崩すことになり、かえって危険である。
また、樫の会12月21日「新安保法制をどう考えるか」の講演内容(の一部)が以下になります。
・ 新安保法制(集団的自衛権)が成立しても、中東・アフリカ(ISのテロ)の混乱には日本が距離を置く姿勢は変わらない。
・ トルコにNATOの難民キャンプを作り、日本が支援するというアイデアがあった。しかし官邸は興味を示さなかった。
・ 中国は自衛隊が米軍と一緒に行動すると考えていることから、新安保法制に今更反対する理由はないと思われる。
・ 米国側は大統領府・国務省よりも、国防省が新安保法制に積極的である。大統領府・国務省は、日中紛争に米国が巻き込まれるリスクを懸念している。
・新安保法制は安倍政権にとって、憲法改正の一里塚と言える。
講演内容の要点からすると、安倍首相は、IS対策にこれ以上踏み込まないようです。戦後70年にあたり、初めて出た憲法草案は、自民党の本音、明治時代からやり直した意図が満載です。安倍首相の目的は、憲法改正(一票の格差是正から始まり、最終的には第9条2項削除)をして、対米、対中関係を悪化させることです。ここが注意すべき点②です。
また、IS対策が、空爆だけではなく地上戦にある可能性大です。ISは核兵器の脅迫(例、ロンドン)を度々し、「最後の審判の日」終末論に言及しています。注1) 最近のIS対策は、より組み込んだ措置、地上戦の可能性をとろうとするのが傾向です。
元米国務長官ヒラリー・クリントン「ISを打倒するためには、空爆と地上軍の活動をうまく連動させる必要がある。10万人の米軍部隊を中東に派遣すべきではない。(中略)イラク、アフガニスタンの15年に及んだ、戦争の教訓とは、現地社会を守るのは、現地の人々と国でなければならない。(中略)その試みを助けることはできるし、その任務を試みる現地および地域的な軍隊を支援することは不可欠だ」(Foreign Affairs Report,2016 No.1 p72)

米外交問題評議会長リチャード・ハース「地上戦の投入も検討すべきと考えている。派遣する米軍の部隊・顧問・後方支援の数を増やし(中略)より強化すべきだと考えている」(Foreign Affairs Report,2015No.12 p14 )

また、元内閣官房副長官補の柳澤協二さんよると、「陸上自衛隊の現有勢力を派遣可能な部隊規模は一個大隊600人程度であると思われる。対テロ戦争の局面を打開できるほどの力はないということだ」。注2) ここが注意すべき点③です。

注意点①②③により、欧米等が、IS対策が地上戦に踏み込む状況です。現時点では日本にIS対策の打開できる力はないようです。安倍首相は憲法改正して、立憲主義を壊すばかりか、対米、対中関係をわざわざ悪化させている場合でない、と私は考えました。また、現行憲法の9条の意義は、侵略戦争を放棄するだけでなく、「一切の戦力」から剥奪し続け、「公共」空間から軍事的なものを排除し、日本の政治社会を無色透明な、風通しの良いものにするために、決定的な意味を持ちました。注3)

また、樋口陽一さんの著書によると「主権者である国民が戦争しようとすることはないとは限らない、だからこそ、その場合を想定して、あらかじめ国民自身を縛っておこうというのが、憲法9条なのです」。再考した結果、不戦の理念を徹底的に守るため、現行憲法の第9条2項は維持したい、と私の結論になります。

 

注1)ISの終末論は、750年のアッパース革命の思想からくるものだという説があります。(コラムニスト、ヒシャム・メルヘムより)

注2)「安保体制の何が問題か」長谷部恭男、杉田敦(編)、岩波書店、P161~162の要約 、注3)同著のP226の要約

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7 thoughts on “改憲の意図はIS対策(地上戦)でない危険性について

  1. 地上戦になると、人対人で撃ち合うわけですから、空爆などと比べて、味方の兵士がどんどん死んでいきます。あまりにも戦死者が多く出るので、米軍なども自国の陸軍や海兵隊は送らず、もっぱら後方で地域の兵隊たちを訓練したり、武器弾薬を提供して、地元の兵を育てて送るスタイルをとっています。

    米軍でさえ躊躇するほど危険なのが市街戦への参加です。そんなところに日本の自衛隊員を送り込んだところで、何の役にも立たず、土地勘のある敵兵に片っ端から撃たれて死ぬのが関の山です。

    今の自衛隊で、さすがに市街戦への参加はないと思いますが、国連軍の一員として、などまともな理由がつくと、断りきれない可能性があります。これを断るなら第9条2項を残しておくしかありません。

  2. >空爆などと比べて、味方の兵士がどんどん死んでいきます。

    Forean Affairs Report,2015,No11、p6、では「ISのさらなる拡大と
    膨張はありえない」と記事がありました。

    しかし、たった一ヶ月で、Forean Affairs Report,2015,No12、p14
    では、米外交問題評議会会長のリチャード・ハースが「地上戦の投入
    を検討すべき」と。それに対し、米外交問題評議会シニア・フェローの
    フリップ・ゴードンが「何も問題ない。(中略)航空管制官を送り込めば
    空爆の効率は改善するが、一方で管制官がISに捕らえられ残虐な
    方法で殺害されればどうなるだろうか」とあります。

    同雑誌のp21、オランド大統領の「戦争状態」の発言は、単なるレトリック
    ではないだろう、とあります。

    Forean Affairs Report,2016,No1、p83 に
    「ISのプロバカンダ対策を講じ、終末論的なストーリーをネットに
    拡散させるのを抑制すべきだ」とあります。

    (重複します)
    「安保法制の何が問題か」長谷部恭男、杉田敦編、岩波書店、P158

    元内閣官房副長官補の柳澤協二さんの「自衛隊員のリスク」から

    自衛隊の海外任務が大幅に拡大する。(中略)最も重要な訓練は、
    躊躇なく引き金を引く訓練だ。敵を見たら撃つ、そうしなければ、
    一瞬の躊躇が命取りになる。
    だが、民間人に紛れた見えない敵を選別することは不可能だ。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    これは以前、桝本さんがコメント欄で指摘されていた、
    「いずれ(戦争とテロ)も敵対勢力同士の殺人と破壊で反社会的
     行為、つまり「犯罪」です」
    事だと考えています。

    1. ISのプロパガンダ戦略への対処を始めとする、今までになかった方法での巨大国際テロへの対応が、まさに検討すべき課題だと思います。

      先ほど述べました通り、市街戦は全く非効率的です。モグラ叩き式に叩いて行っても、最終的に彼らの宗教心に基づいた自治がなされない限り、雨後の筍のように、テロリストは生まれるでしょう。

      そんな中にあって、自衛隊が具体的に何ができるのか、これはなかなか難しいと思います。

      柳沢協二さんの言葉を借りれば
      >最も重要な訓練は、躊躇なく引き金を引く訓練だ。敵を見たら撃つ、そうしなければ、一瞬の躊躇が命取りになる。

      ということですが、これは日本の自衛隊が最も苦手とするところです。
      また自衛隊はゲリラ戦に対しても、得意ではありません。
      ISと自衛隊はとても相性が悪いのです。

      改憲したからといって、直ちに自衛隊がIS対策に役立つとは、とても思えません。周辺諸国との関係で言えば、どちらかといえば海保(海兵隊)をしっかり活躍させることの方が重要でしょう。
      安倍首相が改憲を急ぐ理由は、全く見当たらず、僕にはとても不思議です。

  3. スンニ派を称するイスラム過激派行動が、サウジアラビアに飛び火して大規模テロでシーア派住民を殺傷すると、今でも断交しているサウジアラビアvsイラン関係がいっそう危機に陥ります。すなわちホルムズ海峡の安全が疑問視されるようになりかねません。

    本日の参議院予算委員会の答弁でも、安倍総理はホルムズ海峡の機雷掃海活動参加への意欲を述べていますが、これは本音でであろうと思われます。

    陸上自衛隊の海外派遣は、工兵つまり道路などのインフラ補修構築、国連が関与する「多国籍・PKO軍」への後方=兵站支援にとどめ、世界へ向けてのプレゼンス・デモンストレーションは、海上戦力と航空戦力でしょう。
    すなわちアメリカ太平洋艦隊と舳先を並べて太平洋沿岸で睨みをきかせたい、あるいは、島嶼奪還・上陸作戦演習で示されたような、アメリカ海兵隊との共同作戦遂行能力を見せつけたいと言うことだと思います。
    このとき、アメリカ軍の行動を、重大な挑発と感じた中国が暴発したときに共同で戦闘をすることを想定しているのが、昨年の安保法制に組み込まれた「集団的自衛権」の主目的でありましょう。

    日本国内で仮にIS系、アルカイダ系のテロが起きても、対テロ作戦は警察にまかせるつもりです。大規模テロであっても国内で自衛隊が堂々と部隊展開をするのは、クーデターを忌避する国民意識から、政権どころか、自民党をも破壊してしまう危険があるからです。

  4. ちまたで喧伝されるような「改憲の目的は九条の改正である」というわけではなく、明治維新体制を現代化した国家と社会秩序を取り戻したい(ほら安倍総理は「日本を取り戻す」って言うのが好きでしょう)。
    天皇を元首=頂点とする権威と権力のヒエラルキーを築きたい、国家を構成する最小単位を「個人・国民」ではなく「家族」にしたい、ということだと思います。
    個人が自由に考えてものを言うことは好ましくなく、個人は家族のことを第一に考えればよい、国家のことはプロ(特権階級化した政治貴族)にまかせよ。
    この流れを延長すれば高市総務大臣の「停波発言」が必然であることがわかります。
    少なくとも現在流布している「自民党憲法改正草案」を読む限りそうとしか思えません。
    <参考>自民党憲法改正草案
    第十二条(後段追加部分);
    自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
    第二十一条の二;
    国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。
    第二十四条(挿入された第一項);
    家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、お互いに助け合わなければならない。

  5. >陸上自衛隊の海外派遣は、工兵つまり道路などのインフラ補修構築、
    >国連が関与する「多国籍・PKO軍」への後方=兵站支援にとどめ、

    同様の事を、柳沢協二さん、弁護士の伊藤真さんも著書で書かれて
    います。

    >これは(銃戦)日本の自衛隊が最も苦手とするところです。

    苦手、とは知りませんでした。
    安倍政権ではあの草案どおり、対米、対中関係の悪化が目的
    なので、IS対策には踏み込まないと考えています。
    (しかし、米軍も銃戦が得意とは思えません。)

    次の首相が恐らく石破さんなので、IS対策がまだ未知数です。

    また「Forean Affairs Report」、これは国際政治学者から
    勧められた(全く戦争に詳しくない私でも読める)雑誌です。
    amazonでも買えますが、いわゆるジャーナルなので、
    欠点は普通の雑誌より高いことです。(月刊誌で2260円)

  6. >ISのプロパガンダ戦略への対処を始めとする。

    Foreign Affairs Report,2016 No.1
    「ISとカリフ制国家ー何が異質で、どこに継続性があるのか」
    p85~86より

    グローバル化のテクノロジーはISに、不特定多数の多数の
    大衆に接触し、語りかけるチャンスをもたらした。これは過去の
    原理主義運動には想像もできなかったこと(中略)

    スターンとバーガーはISの独創的で高度なプロバカンダと、
    ソーシャルメディアの見事な利用について、もっとも説得力
    のある分析をしている。ISは、足並みの沿った軍隊のように
    動くオンライン空間の支持者を数千人もっている。

    ISが斬首映像をインターネットに投稿し(中略)、その下の
    階層の連隊が「ハッシュタグを付けて、リンクをリツイートし、
    さらにお互いのツイートをリツイートし、さらに新たなツイート
    をする」。(中略)ツイートを何百も生み出し、「ツイッターの嵐」
    を起こすことになる。(中略)

    アルカイダは自己宣伝には熱心でなかったかもしれないが、
    ISは正反対で下品なくらい自己宣伝が好きだ。(中略)
    こうしたインターネット使った広報活動によって、ISは世界中
    から支持者が集まってくる。イラクとシリアにいる外国兵士は
    約2万人に達するという推定もある。

    >「改憲の目的は九条の改正である」というわけではなく

    私も最初はそう思っていました。しかし憲法改正の国民投票は
    一条ごとにしなければいけない、と後で知りました。ですので、
    全文の改正は無理だと考えています。
    現段階で私の知りかぎりでは、草案を出し、大きくふっかけて、
    一番の目標は「第9条2項の削除」です。(緊急事態も持ち込み
    そうです。)
    (「新安保法制をどう考えるか」や、また小林節さん&伊藤真さん
    の著書により)

    >安倍総理は「日本を取り戻す」って言うのが好きでしょう)。

    日本を占領軍(アメリカ)から取り戻すのでしょうか。
    (そんなことしている場合ではないと思います。)
    現行憲法は「GHQ案『日本の無力化のため』の8日間の徹夜の
    翻訳」らしいです。よくそこまで大嘘がつけるものだと呆れます。

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