参院選前に、ほぼデタラメパンフレットを公布するの?
先日、私が書いた記事は「日本国憲法はアメリカの押し付けではない?」と疑問形式で書きました。疑問形式にしたのは、できるだけ中立でありたい、読み手に考える機会を持つため、との意図がありました。参考文献で挙げた本の3冊は、我が家にたまたま、ある本でした。その後、インターネットで検索したら、多くの有識者(例えば、国立国会図書館が展示・解説している「日本国憲法の誕生」や、自民党と民主党で勉強会をしている弁護士の伊藤真さん)が、憲法学者の鈴木安蔵さんの作られた草案で推敲に推敲を重ね、審議をした上での日本人が自ら選んだ憲法だと書いていました。それで「アメリカの押し付けであり、8日間だけの翻訳である」と漫画政策パンフレットの内容は、ほぼデタラメと結論を出していいと結論に至りました。今年2016年の夏の参院選で「憲法改正が争点」になります。18歳選挙権が成立し、投票権ある国民に「ほぼデタラメの内容のパンフレットを公布」していいのでしょうか?
以下は、コメント欄に私が書いた、鈴木安蔵さんの作った草案、その内容、審議に至るまでの整理内容になります。
東京大学大学教授の専門統計学を講義をしながら、労働問題に関心を深めた高野岩三郎さんが1920年に大原社会問題研究所を設立しました。その主要メンバーの一人が、憲法学者の鈴木安蔵さんです。
鈴木安蔵さんは、明治時代に自由民権運動(民主化運動)を行い、ルソーの啓蒙思想(暗きに光を放つ、ルミエール)に、大きく影響を受けた憲法学者です。敗戦後、1945年の10月に大原社会問題研究所で、鈴木安蔵さんが研究会の内容をまとめ、最終案を出し、12月の年末に憲法草案の要綱を作りました。「2ヶ月かかって作られた草案」です。その草案はGHQの案と近似していて、日本の民主化の思想に目指すものでした。
GHQの案と比べ、大きく足らない箇所は「国民主権」の宣言規定、「象徴天皇」です。
「憲法「押しつけ」の幻」五十嵐仁、大原社会問題研究所雑誌、No.577
から、文章を抜粋。
日本国憲法の核心をなす「国民主権の宣言規定」と「象徴天皇」は,マッカーサー草案をさかのぼって,憲法研究会案に起源を持っているのである。日本国憲法の核心部分は,憲法研究会が生みだした日本側のオリジナルな思想である。(本書,18頁)このように,日本国憲法の核心部分はアメリカによる「押しつけ」ではなく「日本側のオリジナルな思想である」。
現行憲法の前文、心を打たれる内容は、日本の独自のものと、多くの有識者が主張していたのです。憲法草案の幾度となる推敲、審議を経て、戦後の日本人が納得し選んだのが、現行の日本国憲法です。(コメント欄整理終わり) また、自民党、民主党と勉強会をしている、弁護士の伊藤真さんの「伊藤真のけんぽう手習い塾 第443回」によると、「そもそも当時、押しつけ憲法という概念はなく、1954年の自由党の憲法調査会で明治憲法の体制を維持したかった松本蒸治氏が感情的に押しつけられたと発言し、それが押しつけ憲法という決まり言葉として政治的に利用されてきただけのことです」と書いてあります。
次は、翻訳の話です。英語と日本語は形式が違うので、私が知る限り、小説、報告書だけでも翻訳は難しい作業です。私が以前書いた「GDPは数値のカルト信仰」の記事の内容になりますが、2009年のスティグリッツ報告書の前文で、前サルコジ大統領が、GDPを以下のように記述しています。
「We have bulit a cult of the data, and we are now enclosed within.」
(我々は数値のカルト信仰を作ってしまった。今、我々はそれに閉じ込められている。)
ここで、 a cult of the data を直訳すると数値信仰になります。私も最初は、数値信仰ではいいと考えていました。しかし、cultという側面を出すために、数値のカルト信仰が適訳だと考え直しました。
また、最近読んだ村上春樹さんの「職業の小説家」スイッチ・パブリッツシング、
で「ファンが僕の本を読んでくれているみたいです」という「みたいです」文章が多くあるのが気になり(村上春樹さんの本が読まれているのは自明だったので)、以前のエッセイを読んだら「みたいです」が確かにありました。村上春樹さんはレイモンド・カーヴァーなどの英文小説を読み、英語と融和した日本語の文章で小説を書かれて、デビュー時から突出した作品が、いわゆる天才として、多くの日本の文筆家には脅威でした。注) 「みたいです」は、it seems likeだと考えています。村上春樹さんは、英文を多く読まれています。この場合、英文を和訳という形式になっていると思いますが、ノーベル候補者の小説家でも不自然な点はあります。法律のように乱用されないために、プロでしか解釈が困難な条文作成はより大変です。しかも1945年には英語教育は大きく普及していないはずです。翻訳だったら、ひどい現行憲法になっているでしょう。(同様のことを桝本隆さんがコメント欄で指摘されています。)
上記の点を踏まえ、「8日間の翻訳作業で、アメリカの押しつけの憲法」と言い切る漫画政策パンフレットは、ほぼデタラメと、結論を出しました。繰り返しになりますが、自民党の皆さん、デタラメ漫画政策パンフレットを参院選の前に、大真面目な顔で公布していらっしゃいますが。ご冗談もしくは悪ふざけにも程度があり、やめていただきたいでしょうか。
注)「ピアニシモ」辻仁成、新潮文庫の、(辻仁成さんの小説デビュー作の)あとがきで、小説家のSさんが「村上春樹を葬送してしまおう」、「村上春樹は山田詠美より円安」、「村上春樹によって死刑宣告された古い「青春」」等の、辻仁成さんの小説と全く関係のない村上春樹さんに関する文章が多く記述してあります。いわゆる天才は脅威だったのだろう、と考えています。
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そりゃもう「TPP断固反対!」で選挙に勝って政権復帰した自民党だから、ですじゃ。
僕は日本国憲法を読んでも、ちっとも翻訳調で読みづらいとは感じませんでした。村上春樹さんの文章がすっと理解できる、今の人にとっては、翻訳調かどうかは、大した問題にはならないと思います。
私が問題と考えているのは、漫画政策パンフレット「ほのぼの一家の
憲法改正ってなあに?」のP14~20の「忠実を踏まえ、再構成して
います」の内容だと考えています。
5月3日の憲法記念日に、ほのぼの一家が憲法改正の話を始めたら、
千造おじいちゃん92歳が急に覚醒し「だまれいっ。歴史もしらん
くせに」とたまに目からビームを飛ばしながら「日本国憲法の基
を作ったのがアメリカ人だからじゃよ」現行憲法について家族に
講義を始めます。
千造おじいちゃんの講義内容は以下のようなものです。
GHQ民生局長が「松本案は明治憲法をうわべだけ変えたものです」と
松本大臣に草案を治すように求めます。
それに対し、松本大臣は「こ、こんな英語で書かれた憲法をただ日本語に
訳せというのか…」とブルブル震えています。
「翻訳しただけの、現行の日本国憲法」だそうです。
締めくくりでは、千造おじいちゃん「敗戦した日本にGHQが与えた憲法
のままではいつまも経っても日本は敗戦国なんじゃ」の言葉です。
家族はその講義内容にまったく疑問を持たず、すっきりした、と
憲法改正に前向きに取り組む意思が見られます。
コントのようなデタラメ漫画は、政策パンフレットではなく、コミケとして
東京ビックサイトで配ってもらえないでしょうか…。