米国籍になる前に日本政府は中村さんに十分な研究費を提供すべきだった
ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏に対して、安部首相は「日本人3人が受賞して喜ばしい」として、あたかも中村さんが日本人であるかのような認識を持っておられるようだ。だがそれは、心は日本人、と言ったレベルの心情的な感覚に過ぎない。中村さんはもはやまぎれもなくアメリカ国籍のアメリカ人なのだ。国際法および日米双方の国内法に照らし合わせても、それは明白だ。国際社会での認識も当然一致している。もちろんノーベル賞の賞状にも「American Citizen」と明記されている。
心情的な応援をいくらしても、理系の先端科学の研究者にとってはなんの意味もない。日本人の想像を絶するような膨大な研究費が、理系の先端科学の研究を進めるためには不可欠なのだ。そのケタの違いを日本政府は本当に理解しているのだろうか。中村さんはアメリカの市民権を取得しようと思った理由について、次のように述べている。
軍からの資金援助を得るためには、米国の市民権を持っていることが条件だった。そのため自分は米国市民権を取ろうと決心した。また米国の企業や大学など各種研究機関から多額の研究費が出ることも既に決まっていた。
研究費は理系の先端科学者にとって命綱である。成功するもしないも研究費次第と言っても過言ではない。もちろんノーベル賞クラスの真面目な研究者が、私腹を肥やすために研究費を流用するなどといった心配は無用である。それなのに日本政府の提供する研究費はあまりにも少ない。科学者に言わせれば冗談でしょ、と言いたくなるようなレベルだ。
2012年にiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授に対して「2012年10月19日に野田内閣が閣僚懇談会でノーベル賞受賞の祝い金として洗濯機購入費16万円を贈ることを決定した」というニュースを聞いた時には、ずっこけそうになった。山中さんは京都マラソンで山中自身が完走することを条件にクラウドファンディングと呼ばれる募金方法で研究資金を募った。
さすがに安部政権になってこれではいけないと考えたのだろう。政策としてiPS細胞の研究を日本の科学技術の目玉と位置づけ、十分な研究費を支出することになった。それでも理研に見られる「悪魔の証明」に過ぎない存在しないSTAP細胞なんかに多額の出資をするなど、ちぐはぐな行動が目につく。
日本の貴重な財産である頭脳の流出を防ぐことは、最大の重要課題の一つである。にもかかわらず政府側の認識と研究現場側の認識には、まだまだ大きな隔たりがあり、まったく間に合っていないことを今回の中村さんの例で露呈した。純粋な科学者の脳みそは100パーセント研究のことしか頭にないから、研究環境を整えてくれるところであればどこへでも行く。世界大戦の時にドイツの優秀な科学者が何人もアメリカに亡命したのを覚えている人も多いだろう。
先端科学技術の分野の研究に資金を投ずることは、他の学術分野の研究に賛助金を投ずることとは根本的に違う。これは寄付でもノーブルズ・オブリジエでもない。先端技術の成果からもたらされる経済的利得、国益としての価値は計り知れないものがある。つまり「元が取れる」商売なのである。政財界が本気で取り組まないのが信じられない。また軍事利用に関わる先端技術については、各国ともにトップシークレットであり、武器は輸出しても肝心の先端技術の部分は取り外して輸出するのが普通だ。
国家に致命的な損害をもたらす頭脳流出。これを機会に真剣に危機感を持って取り組んでいただけることを強く期待します。
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