「イスラム国」は今までに無かったタイプの国際テロ組織へと変貌する
ひどくぶっちゃけた言い方をすれば、オイルマネーを除いて中東アラブの人々は常に貧しい。そして危険にさらされて生きている。シーア派とスンニ派の対立。パレスチナ人民解放軍、少数派民族の弾圧と反発。基本的に中東のアラブの人々が平和に暮らせたことなんて、世界大戦後今まで一度たりともありはしなかったのだ。
地図を見ると一応国境線が引かれていて、ちゃんとした国の名前がついていて、大統領もいてそれなりのいくつかの独立国家であるかのように見える。しかしその多くは破綻国家だったりする。我々の暮らす東アジアやASEANを想像してはいけない。「イスラム国」にどんどん占拠されていくイラクやシリアなど、それぞれの国に政府があり、正規軍だって一応まがりなりにはあるのだろうが、ではどうして「イスラム国」の勢いを止められないのだ?
第1次大戦中、英国とフランスは「サイクス・ピコ協定」を結んでいたため、パレスチナやイラク、クウェートは英国の統治下に、シリアはフランスの統治下に入った。「サイクス・ピコ体制の打破」が「イスラム国」のスローガンであり、ヨーロッパの列強によって勝手に引かれた国境線を、自分たちで引き直す。彼らの言うとおりなら旧オスマン帝国の一帯に新しい国ができて一件落着だ。だが僕にはなんとなく「イスラム国」の最終目的がそれだけではすまないような不気味な予感がして仕方がない。
「イスラム国」という日本語の呼称に違和感を覚えるのは僕だけかというブログを以前書いた。だが今となっては名前の通り巨大なイスラム統一国家の建設を、彼らが本気で目指しているのではないかという気さえしてきた。
異なる民族や宗教が複雑に絡み合うアラブでは、今までからことあるごとに様々な政治目的の武装集団が蜂起した。かつては部族を中心に最近では民族の自治を旗印に、それぞれ武装集団が勢力を拡大し、ある時は他の集団と対立し、ある時は少数民族を統合し、地図を塗り替えていくのが、いわば日常と言ってさえよかった。しかし僕は今回の「イスラム国」の件に限り、いままでの武装集団の分析が通用しない、非常に奇妙ないらだちを覚えている。これまでの分析手法が経験として生きてこない自分へのいらだちと言ってもいいだろう。
勢力拡大を続けている「イスラム国」とは、いったい全体どういった組織なのだ?・・・ナゾだ。
断片的ではあるが、僕が個人的に感じた「イスラム国」なる存在が気にかかってしょうがないポイントを列挙します。
- 2000億ドルとも言われる潤沢な資金源
- さらに一日あたり2億ドルの収入
- スンニ派のカリフ制ではあるが、カリフ制というイスラムの歴史的政治体制を復活している
- 少なくともイギリス人の若者500人を含め、西欧諸国から反体制派の若者が次々にテロリストとして合流している
- 最初からアラビア語ではなく英語による巧みなプロパガンダの実施
- インターネットを高度に活用している点
- 広報映像、リクルート用ビデオ等の驚くべき洗練度の高さと、一方で徹底した残虐映像を使い分ける巧みさ
当初「イスラム国」はTwitterなどを通じて情報発信をしていた。やがてTwitter社は彼らのアカウントを停止したが、自己紹介欄に「私はISのメンバーではありません。戦闘活動もしていない一般市民です」と書かれたアカウントが次々に作られ、情報発信を続けている。内容は主にパレスチナに関する一般的な広報ビデオや、市街戦の様子、それらに混じって組織へのリクルートビデオに誘導されるようになっている。
その数は僕がざっと見ただけでも300本以上。そして僕が何よりも驚いたのはプロパガンダ用映像のクオリティーの高さだ。ビンラディンが銃を突き上げているような一昔前の映像を思い浮かべてはいけない。欧米のCMを上回る美しい画質で、アラビアの自然や文化、搾取されつつもたくましく生きる子どもたち、平和な市民を襲う空爆の悲惨さ、それらがみごとに洗練された編集で仕上がっている。アニメーションによる軍産共同体の解説も解りやすい。誰が作ったのか知らないが映像のプロである僕が観て、うーん、と感心させられるようなものもあったから、何をか言わんやである。映像を見て思想的影響を受けそうになたのは「戦艦ポチョムキン」以来である。映像を甘く見てはいけない。はたして彼らはどういうつもりでこんなに金をかけたビデオを作っているのだろうか。
ふと悪夢のように蘇ったのは、1970年のよど号事件、1972年のテルアビブでの空港乱射事件である。当時こどもだった僕にはなぜ連合赤軍が(日本赤軍と後に名前をかえるが)はるばるそんな遠いところまで出かけて行って、自爆テロなどに合流しなければいけないのか、さっぱり意味がわからなかった。そこで岡本公三氏や重信房子氏についてちょっとだけ調べてみた。また当時の書物なども読み返してみた。もしかしてその時代まで遡らなければ現代の中東でのテロは理解できないのではないかと思ったからだ。古い本のページをめくっているうちに、2〜3心に引っかかる単語が出てきた。「世界同時革命」「持てる者と持たざる者」「資本主義の終焉」。この瞬間、僕の頭のなかでテロリストたちが作っているプロパガンダ用映像と何か一瞬リンクするものを感じて身震いした。まさか・・・。
こんなことがあってはならないが、僕は究極のシナリオを頭に描かざるを得なかった。テロリストたちが求めているのはイラクやシリアの土地などではなく、全世界をターゲットにしたイスラム文化への洗脳なのではないか? すなわち「イスラム国」は世界イスラム革命を最終目標にしているということになり、舞台がたまたまイラクなだけで、真の目的は「アンチ西欧文明」をキーワードにして世界中から革命を目指す若者を集めることにあるのではないか。だとすると非常にやっかいなことになる。経済的にはユダヤアメリカ資本対その他マネー、宗教的にはハルマゲドンの様相を示し、世界中の文明国にテロリストが散らばることになる。新しいメディアの時代には新しいテロ組織のあり方があっても不思議ではない。
これが杞憂であってくれればいいと心から願っている。いや本当に杞憂だろう。だがそうとも言えない証言がイギリスのMI6の元分析担当室長の発言としてある。例のロンドンの若者がテロリストになった件についての分析だ。
今回イギリスの若者がテロ組織へ走った理由は宗教的なものではない。現体制に対する不満からだ。いずれ欧米諸国10カ国以上がテロの標的にされる可能性も否定できない。
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2015/01/11追記;最新記事をお読み下さい。
やはり「イスラム国」は洗練された新国家の樹立をめざしている?
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ターニングポイントは、「イスラム国」がイスラエルと対峙したときだと思います。
イスラエルは今のところ静観しているようですが、シリア、ヨルダンを経て、ハマス・ヒズボラとの関係が強くなれば、黙っていないでしょう。
次はシーア派の頭目イランへの侵入。さらに圧迫されたイラクのクルド人がトルコに逃げ、トルコ内でクルド人防衛のため独立を言い始めることが考えられます。それを警戒したトルコ軍がイラクシリアの「イスラム国」への越境攻撃をすると、泥沼。
なるほどそうかもしれません。
でも僕は今はサウジアラビアの動きに最も注目しています。彼らの母体だからです。そしてサウジアラビアとアメリカがどう動くかで、ある程度読めてくる気がします。
時代の閉塞感を背景に若者が走るとなると、オウム真理教の構造に極めて近いとも考えられます。日本人にはイスラム教はピンとこないけど、別の過激派思想集団が発生してテロを起こさないとも言い切れない気がしてきました。