SNSで都市伝説を煽った責任は不自然な報道をした既存メディアにある
まずは先日の火災により、ご自宅と尊いご家族の命を失った猪口邦子参議院議員に、追悼の意を表しご家族のご冥福をお祈り致します。この日は空気が乾燥していて、火災の危険が大きい日でした。文京区小石川ということで、同じ東京23区内に住むものとして火災を注視していました。通常なら1時間ほどで鎮火するものと思っていましたが、消防車が入れない狭い道路だったこともあり消火に9時間もかかってしまいました。
類焼が抑えられたのは不幸中の幸いでしたが、結果的に僕は眠れず、9時間の情報収集に一夜を費やしてしまいました。僕はNHKしか見ないので、民放でこの件を扱うようになったのは、翌日のワイドショーでした。NHKでは当日の夜中は消防の進み具合を短く述べるのみで、僕は暇つぶしにその他の情報をSNSで探していました。火災のニュースは通常消防の発表に基づく事実関係を伝えます。
通常の火災報道の場合、まず「どこで」「誰の家」が火災にあい「犠牲者」はいるのか、また犠牲者がいるとすれば「誰か(性別・年齢)」といった優先順位で手短に述べます。出火原因、火元の特定は現場検証を経て後日あらためて報道します。しかし今回の報道の仕方は、明らかに不自然’な感じがしました。放送される順番が通常とは違っていたのです。NHKはヘリまで飛ばしながら、
- 「東京都文京区で火災が発生し消火に手間取っている」
- 「油のようなものが撒かれた形跡はない」
と繰り返すばかりで、「誰の家」が火災にあったのか。「犠牲者は出ているのか」といった情報は含まれていませんでした。猪口邦子参議院議員の自宅だと知ったのは、残念ながらネットからの情報が先でした。よく考えてみると「油のようなものが撒かれた形跡はない」という情報はNHKの第一報として必要だったのか。消火作業中にも関わらず、こんな詳細な情報をあえて流す必要はあるのでしょうか。
普通の感覚として「油のようなものが撒かれた形跡はない」という情報は、まず「油のようなものが撒かれた形跡があるかも知れない」という情報あるいは噂が出た上で、それを打ち消す意味で初めて必要になる情報です。前提として「油のようなものが撒かれた」という憶測やデマが流れて、それを否定するための発表のはずが、なぜ早期に第一報として繰り返されたのか。僕には不自然に感じました。
案の定このような不自然さに触発されたように、ネット上では放火説を含め様々な不適切なフェイクニュースが飛び交いました。たまたま犠牲者が現職の参議院議員だったというだけで、こんなにも酷い扱いを受けるのか。改めてSNSの恐ろしさを感じました。確かにSNSというのはそういう特性を持った存在です。「テレビでは絶対に言えないXX」と言ったタイトルが、フォロー数を増やしています。人間は隠されると余計に見たくなる。という特性がありますから、当然と言えば当然です。
ネット上だけならともかく、既存のメディア(オールド・メディア)の民放ワイドショーも、そのネット上の都市伝説に乗っかる形で、根拠のない論調を放送していました。具体的には「ミヤネ屋」が一例として挙げられます。
- 「ペットボトルのようなものを持った女性」
- 「踊るように動きで右へ移動した」
という話題を、視聴者提供の動画とともに紹介しています。あたかも放火関係者と言わんばかりに「この人物が誰か。何をしていたかなど不明」という思わせげな文言のテロップまで作っていました。不明ならそもそも映像を流すな、と僕は思います。万一被害者だったらどうするつもりなのか。自分の焼け死ぬところを写されたらどんな気持ちになるか。容易に想像がつきます。
それだけではなくネット上では、猪口邦子さんのプラーベートな情報まで、有る事無い事好き放題に書かれていました。相手が公人だったら何を書いてもいい、と言わんばかりです。基本的人権、倫理、マナーなどは、ネット上でも守られるべきではないでしょうか。ネットメディアが悪いわけではありません。このニュースを都市伝説へと煽ったのは既存メディアの責任でもあります。冒頭に書いたように、「誰の家」かと言った基本項目も報じずに、「油のようなものが撒かれた形跡がない」といった詳細情報を真っ先に報じる不自然な臨時ニュースのあり方にも問題があります。
警察、消防は現場検証の結果、早々と「事件性はない」と結論づけました。火元と見られるキッチンにはストーブもなく(床暖房)、出火原因は「電気火災かも知れない」と可能性に触れただけでした。「事件性はない」と結論づけた訳ですから、これ以上捜査しない方針を打ち出したのです。それならそれで僕としては「電気火災」とは何なのか、どうしたら「電気火災」が発生するのか、どうしたら防げるのか。非常に興味があります。我が家にも電気製品はたくさんありますから、どれから出火するのか。皆さんもきっと知りたいでしょう。
くだらない陰謀論に興じている暇があったら、その議論を「電気火災」について向けた方が、はるかに建設だと思うのですが。
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