あまりにもバカバカしい日馬富士関連の報道ぶり

九州場所の最中だからだったからでしょうかね。テレビのワイドショーでは連日どのチャンネルを見ても、日馬富士の暴行事件の話題で埋め尽くされて、他には何もニュースが無いのかと思うくらい加熱していました。日本人のお相撲好きは結構なことですが、こんなくだらない話題で盛り上がれる日本人もどうかと思います。

とはいえ私も職業柄、新聞社からコメントを求められ、それなりに記事(産経デジタル)を提供しているので、まあ盛り上げ役の片棒を担いでいると言われれば返す言葉がありません。でも報道の過熱ぶりはちょっと異常だったと思います。だって話は極めてシンプルじゃないですか。

酒の席で上司が部下に鉄拳制裁をし、ケガをさせた。パワハラで暴行。傷害容疑で詳細を警察が取り調べている。以上。とそれだけの話で、そんなに珍しい事件ではないというのが、僕の率直な感想でした。

でもそれで終わらせてしまったら、僕は原稿料をもらえないので、横綱の「綱」についてのうんちくを傾け、付加価値をつけて記事に仕立て上げました。そうしたら意外なほど反響がありました。「このような暴力はよくあること」と書いた僕の記事に対して、「重大な事件だ。よくあること、で済ませるのか?」「暴力を肯定するのか?」というメールをいただいたのです。

僕は記事の本文でも「暴力は暴力。決して許されるものではない」とハッキリ書いています。相撲協会の危機管理委員会に協力しない貴乃花親方の態度はいかがなものか、とは書きましたが、明らかに加害者である日馬富士が悪いわけで、貴ノ岩側が被害者であることは、議論するまでもありません。ちゃんと読んでくれたら、それが分かると思うのですが、暴力、という言葉に過敏な人が増えているような気がします。

若い頃にケンカなどした経験もない人なのかな、と想像しています。僕の中学生時代は学校でも、体罰が平気でまかり通っていましたし、僕自身、教師に強烈なビンタをされたこともあります。高校時代は暴走族によく絡まれ、壮絶な格闘を何度も経験しています。大阪だったのですが、赤井英和など、本当にやんちゃで危険でした。

僕は自慢にはなりませんが20代の頃、大阪駅で酔っ払った四人組の男たちに絡まれ、四対一で殴り合いのケンカになったことがあります。すぐに警官がやってきて取り押さえられ、五人とも逮捕。曾根崎警察署にしょっ引かれて事情徴収です。四対一で僕の方が被害者だと思っていましたが、どうやら最初の一発を殴ったのが僕だったと言うことで、僕が加害者になりました。その場で示談書を書かされ、ケガの治療費と壊したメガネ代、慰謝料5万円払うことで解決しました。

また職場で別の部署ですが、ある人物が酒の席で部下を殴ってケガをさせたことがありました。結局その人物は自分の上司から呼び出されて詰問され、ケガをさせた相手に慰謝料を払い、降格になり、左遷されました。しかし警察沙汰にさえなりませんでした。要するに長く生きていれば、暴力沙汰を経験することなど、珍しくもないのです。

今回の日馬富士の一件も、僕から見れば、それらの暴力沙汰と同じレベルに感じられました。たまたま国技である大相撲の、頂点である横綱がやらかしたから話題になっているにすぎないと思うのですが、そうは受け止めない視聴者が多いようです。天下の大事件であるかのように、シリアスに反応されて、僕としては正直言って脱力してしまいます。

そもそも横綱とはいっても人格者であるとは限りません。力士に高潔な人格を求める方がどうかしています。中学を出て相撲一筋、毎日稽古に励んで身体能力のみをひたすら鍛え上げているのです。そして本場所に出て幕下から成り上がり、勝負に勝ち続けていって、結果的に優勝を重ね、横綱に認定されるのです。

肉体は素晴らしいでしょうけれど、精神は普通の20代や30歳の若い男性にすぎません。道徳や教養を身につけている人もいるでしょうが、ただの血の気の多い若い男性である場合も多いでしょう。横綱になったら突然、精神的にも模範となる人格者へと成長するというのは、大きな幻想です。国技大相撲という文化のもたらす、演出されたフィクションです。

娯楽として大相撲を楽しむのは、大いに結構なことだと思いますが、暴力沙汰一つで天下がひっくり返ったような大騒ぎをしたり、社会問題であるかのように侃々諤々と論じるワイドショーを見ていると、本当にバカじゃないかと言うしかありません。もっと他に話題にすべきニュースがあるだろう、と僕なんかは思ってしまうのですが・・・。

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【12月3日追記】

振り返ってみると、この大騒動には何か既視感がありました。そうです、芸能人が覚醒剤で逮捕されたときのワイドショーの騒ぎ方に、とてもよく似ています。一年間に覚醒剤で検挙される人数はおよそ30000人。毎日100人くらいの逮捕者が出ているのに全くニュースにならず、芸能人や有名人の時だけ、ここぞとばかり大騒ぎします。そっくりな構造です。

そんなゴシップネタで世の中の注目をそらしている間に、なぜか内閣では怪しい法案が提出されていたりする、といった具合に報道がゆがめられていても、誰も気づかないのでしょうね。やれやれ。

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2 comments to “あまりにもバカバカしい日馬富士関連の報道ぶり”
  1. 大騒ぎの背景には、日本人力士がモンゴル力士の後塵を拝し続けているという、はっきりとは口にできないモヤモヤがあるように思えます。
    相撲界の諸問題の根底には、15日制年六場所+地方巡業という過密な興業スケジュールがあるのではないでしょうか(10日年2場所時代とは大違い)。
    力士が、あの激しい格闘に耐えるため稽古して、大量に食べて身体を大きくするという過程に必要な、静養期間が保障されていません。
    怪我や故障に泣き、給金が貰える十両に上がる前に引退する力士が多ければ、青少年が選択する「職業」としては「ブラック」そのものでしょう。飲食業、介護職、トラック運転手の比ではないかも知れません。
    日本人のなり手が少ないので、ハングリー精神に富み(一人当たりの所得が日本の数分の1しかない)上昇志向が強いモンゴル人という外国人労働力に頼るという構図が特徴的に現れているとみることができましょう。
    相撲協会は収入源となることを我慢して、本場所回数と巡業回数を減らして、力士の身体のケアと一回の取組の価値を上げる努力が求められると思います。本場所数が削減できなければ、13日制でもいいかもしれません。

    • モンゴル出身の力士が活躍する前には、小錦、曙、武蔵丸といった、ハワイ出身の力士が活躍していましたね。今ではハワイのネイティブでも、アメリカ人として収入レベルが良くなったからでしょうか。過酷な相撲界を目指すハングリーなアメリカ人はすっかり姿を消しました。

      あ、ブルガリア出身の琴欧洲なんていましたね。スリムな身体でよく頑張ってくれたと思います。どこの国の力士でも、良い相撲をとってくれれば大歓迎です。今さら反グローバリズムだといって差別するわけにはいかないでしょう。

      むしろ引退後も親方株を手にする権利はない、という不利な条件にもかかわらず、低迷していた大相撲人気を支えてくれた、外国人力士には感謝するべきです。

      15日を六場所という厳しいスケジュールも、ガチンコ相撲が重視される中で、ケガや故障を多発する原因ではありますが、本場所は楽しみにしている大相撲ファンが大勢いる以上、減らすわけにはいかないのでしょう。

      日数を減らすのはありだと思いますが、その分を観覧料金の値上げで補わなければなりません。十両以上にならなければファイトマネーが入らない、というルールも厳しいですが、それが稽古やトレーニングのモチベーションになっているので、一概に否定できません。

      大リーグじゃなくてマイナーリーグでも食べていけるように、大相撲に対して小相撲などというリーグを作るのも良いかも、と思ったけれど番付のコンセプトが根底から覆ってしまうので、ダメですね。うーん、難しい。

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