神風特攻隊と自爆テロはちがうという主張について

tokkotai

大日本帝国陸海軍が大好きだ、靖国神社は神聖だとおっしゃる方々は、日本の「特攻」が現代の「自爆テロ」の発想元となったということには嫌悪を感じるようです。
たとえばFacebookでは次のようなブログがシェアされ拡散されます。

「これは驚いた。未発表資料が出て来た!!神風特攻隊が残した戦果は、実はすごかった。」
http://blogs.yahoo.co.jp/novice14sight/13954896.html

これに対して賛同する方の代表的感想は、

日本の特別攻撃隊たちは権勢欲とか名誉欲など、かけらもなかった。祖国を憂える尊い情熱があるだけだった。
代償を求めない純粋な行為、そこには真の偉大さがある。
テロと特攻は大きく違う。

アメリカ軍が、日本軍の特攻に苦しんだという上記記事はWikipediaにも記載されていて、別に新たな事実でもなさそうです。
カミカゼ=自殺機攻撃は、全くの想定外で、レイテ、沖縄戦でのアメリカ海軍の司令官を含め将兵をノイローゼに追い込むほどの効果はあったと記述されています。
具体的な「戦果」については、Wikiを参照してもらうとして、「戦果」のみを過大に評価するのは、帝国「大本営」の得意とした伝統的悪弊と言えるでしょう。
もちろん戦果の裏には、帝国はパイロットと特攻機を出撃のたびに全滅させていたし、特攻の効果を見定めるための帰還兵もごくわずかで確認のしようがなく、資料もアメリカのものを信じるしかないということになります。

歴史的な経過やアメリカ軍の日本攻撃戦略という文脈でみると、大日本帝国の「特攻(自爆攻撃)」は、アメリカ軍の戦略にもほとんど影響を与えず、ひたひたと日本本土に迫って、大日本帝国はなすすべがなく追い詰められて降伏したというしかありません。
たしかにアメリカ軍は日本に接近するほど損害が大きくなりましたが、結局は、100万円持っている人の1万円の損と、1万5千円しか持っていない人(大日本帝国)の1万円の損の違いと考えねばなりません。
アメリカの立場に立って、客観的に特攻が、アメリカの戦略に影響を与えた可能性を考えるなら、損害の甚大さを憂慮して上での、原爆の早期使用でありましょう。
祖国を憂える尊い情熱」に溢れた特攻隊員は「何の代償も求めなかった」が、徹底した都市爆撃や原爆という招かれざる、あまりにも悲惨な代償を日本国民(非戦闘員)にもたらしたのです。

自爆テロリストが相手にしているのも、敗戦目前の帝国日本が相手にしたのも、はるかに巨大な敵です。目的も相手に恐怖と疑心暗鬼を与え戦意をそぐところにあるのもまた同じです。攻撃をになった人々に「代償を求めず、同胞を憂えそのために尽くす情熱」を等しく認めることができます。
特攻隊による自爆(自殺)攻撃は、近代戦闘で初めて実戦投入された「自律型誘導兵器」で、技術が無く金もない弱小勢力が、標的に必ず命中させたいと思ったときとるであろう戦術としはきわめて当然とも言えましょう。
それは「ハイテク誘導ミサイル」も誘導レーダーも有しないテロリストも事情は同じです。

テロと軍隊による戦闘(破壊と殺戮)、両者を隔てる違いは何でしょう。それは制服(軍服)の有無ぐらいです。
つまり特攻は軍服を着た自爆攻撃、自爆テロは私服を着た特攻ということで、冒頭のような帝国陸海軍賛美者とは裏腹に、行為も目的も、「所属組織への忠誠」「代償を求めない」という動機まで同じです。

しかしその「効果」については少し考察が必要です。
特攻が、アメリカ軍に少なからぬ恐怖と混乱を与え、戦術的な変更を余儀なくさせましたが、戦争の勝敗も世界の秩序も変わらず、アメリカが描いた筋書きどおりに進みました。
しょせんは何倍もの大軍に囲まれた篭城兵の決死の突撃で「窮鼠猫を噛む」的な戦果(効果)にすぎません。
大坂夏の陣の真田軍の最後の突撃に曝された徳川軍に代表されるとおり、このような場合、包囲軍に少なからぬ損害が出ることは、戦史を調べればすぐにわかります。包囲側によほどの油断と仲間割れでも無い限り、篭城側はたいてい悲惨な最期を迎えることもほぼ常識と言ってよいでしょう。

特攻とちがって自爆テロは、今やアメリカを含めた世界の秩序を変えてしまいました。
自爆テロリストたちは、特攻が有する「恐怖」の効果に気づいたのです。
どこから攻めてくるのかわからず、死を恐れない人間の攻撃を防ぐのは不可能であるという恐怖が、ハイテク兵器で武装した何十倍も強大な敵に対しても有効であることを特攻から学習したがゆえです。
テロリストは、「窮鼠猫を噛む」戦術としての自爆攻撃を戦略へと転換したのです、世界の秩序を変える戦略に。
これは、コンピューターが大型中央装置による集中処理からインターネットの分散処理ネットワークに変わったのと並行するような、歴史的転換ということに気づかねばなりません。
強大な経済力と軍事力を持った少数の国家の支配から、思想と方法論(恐怖の分散)を共有する分散支配に変わったのです。

もしも「特攻と自爆テロはちがう」というなら、自爆テロの方がはるかに洗練され、戦略的だということをいわねばなりません。

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16 comments on “神風特攻隊と自爆テロはちがうという主張について
  1. >「祖国を憂える尊い情熱」に溢れた特攻隊員は「何の代償も求めなかった」が、
    >徹底した都市爆撃や原爆という招かれざる、あまりにも悲惨な代償を日本
    >国民(非戦闘員)にもたらしたのです。

    ここに書かれている事と同様の事を、小学校の6年間の反戦教育で学びました。
    原爆や空爆は多くの民間人が亡くなります。しかし自国の戦士を損なわない、
    効率的なやり方という点では、日本と、立憲主義を守っているアメリカの
    違いが出ています。

    特攻隊は、明らかな敗戦だと分かっているのに、1944年7月から特攻の
    提案が始まり、10月には実践しています。日本で英雄化されるような映画、
    小説などですが、他国から見るとナチスを英雄視するようなものです。

    • 何が同じなのか、良く考えて下さい。
      「大義」の名のもとに爆弾と共に死ななければならなかったのは、
      同じです。
      「大義」を押し付けた人が死なないのも同じです。

      いかなる美名のもとでも、人を殺す行為に追い込む行為を
      憎むことが大切です。

  2. イスラム過激派の自爆テロは、「せめてひと太刀」という悲壮感こそありませんが、天皇陛下ばんざいの代わりに「アラーフアクバル(神は偉大なり)」と唱えるところといいそっくりです。
    ジハード(=神の正義を讃える聖なる戦いのための自爆テロ)で死ぬと天国へ行けるそうで、お国のために死んで靖国の神となるのとこれもまたパラレルです。
    まったくイスラム過激派は、神風特攻隊からまたとない有効な戦略手段を手に入れたわけです。

    • >特攻隊を、「せめてひと太刀」という悲壮感こそありませんが、天皇陛下
      >ばんざいの代わりに軍部の暴走に対し、

      私が読んだ「図説 特攻」太平洋戦争研究会、森山康平、河出書房新社,p14
      によると、軍部の暴走による、敗戦約1年前に非常手段としての特攻隊の誕生
      について、天皇陛下は自ら率先することは全くなく、ただ「よろしい」とのことでした。

      日本人の文化上、特攻に思い入れができる理由は、特攻隊の多くの方が、家族思いで、
      最後に子犬を抱きながら、悲しい戦争に突入していった、と実感できるからだと思い
      ます。しかし賛美するようなものでは決してありません。

    • 宗教のために死ねば幸せな後世が待っている、と言う考え方は切羽詰まった人間を甘く誘導します。「靖国で待つ」(神になれる)に始まって、オウム真理教の「ポアする」(ワンランク上のステージに行ける)につながる、カルト宗教の特徴だからです。戦前の国家神道は、オウム並みのカルト教でした。ナチスもカルトです。イスラム教ではジハードを遂げたら天国で神の祝福を受け、72人の処女と関係を持て、悪酔いのしない酒をたらふく飲めるとコーランに書いてあります。そこだけ取り出すと、やはりカルトだということになるでしょう。

  3. 特攻の中でも疑問は出ていたようです。「非公式的努力」と「何のための
    出撃か」という問いに対して、説得役は連合艦隊司令部、伊藤長官でした。
    最初は「一億玉砕のさきがけになってもらいたい」と特攻隊の方に懇願した
    けど、やはり疑問が出てきて、最後には「われわれは死に場所を与えられた
    のだ」の一言でした。

    また次のような話もあります。「本日の(攻撃において、爆弾を命中させた
    場合、生還してもよろしいですか」と筑波空時代の教え子が質問したら、
    宇垣長官は「まかりならぬ」と大声で応じた。それに対し、教え子は
    「今聞いていただいたとおりです。あと2時間半の命です」と返しました。

    「図説 特攻」太平洋戦争研究会、森山康平、河出書房新社,p94~96より

  4. 「理解しにくいが、この特攻出撃の事情を知れば(中略)、その前提に
    あったのは、『一億玉砕、つまり日本人が全て死ぬまで戦い、決して降伏
    しないということだったのである。
    当時の日本列島、朝鮮、台湾、を合わせて人口一億人が『天皇と皇室を
    残して』全て死にはてるまで戦うつもりだったのだ」。

    「図説 特攻」太平洋戦争研究会、森山康平、河出書房新社,95より要約
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    これは凄まじい全体主義です。当時のアメリカの軍がノイローゼに
    なるのも分かるような気はします。

  5. (コメントを分けて申し訳ないです。)
    「特攻隊の反対論を一挙に鎮めたのは、伊藤長官の「われわれは死に場所
    をあたえられたのだ」の一言だった。
    死に場所を与えられたのだ、この一言で全員が納得し、従容として死出の旅に
    出発したのである。なんとも凄まじい説得の仕方であり(中略)、一億玉砕、つまり
    日本人がすべて死ぬまで、戦い、決して降伏しないということだったのである」。
    「図説 特攻」太平洋戦争研究会、森山康平、河出書房新社,94~95より要約
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    これでも特攻隊を賛美できるのでしょうか?全体主義、尋常な思想ではないと
    思います。

    • カルト宗教下にあると人間は死に場所、死に方が最大の関心事となります。平和な世に住む僕たちでさえ、ピンピンコロリと家族に迷惑をかけない死に方を希望する、といった感覚があるのですから、もっと間近に死がある人にとっては、なおさらでしょう。

      また日本には「ハラキリ」という自死を美化する文化が、三島由紀夫を例に出すまでもなくあります。1億総ハラキリ、という空気感が満ち満ちていたと考えられます。僕の遠い親戚は玉音放送の時に二十歳で皇居前で切腹しました。

      本当にハラキリすべきなのは、一億ではなく、数名のA級戦犯であったと思います。安倍首相のお祖父さんも、ハラキリしていたはずです。特攻の裏にはこういった日本独自のカルト神道文化があり、カルトイスラム教自爆テロと同一だとは言えないと思います。イスラム原理主義者をインスパイアしたのは事実だと思いますが。

  6. 「死に場所と心得たり」と城を出て決死の突撃をしても、敵ははるか彼方から鉄砲を放って射殺、決死隊は敵兵の姿すら見ることはできなかった、というばかばかしさ。しかも助命を嘆願した殿様は一族皆殺し。もちろん領民も皆殺し。
    特攻隊讃美者なんてそんな「はた迷惑顧みず」「未来が想像できず」「未来が現実になっても懲りない」そういう人々だと思います。
    ごみを集めて家の周りにためる人とか、鳩にはエサを外来者には暴力をというよくニュースにもなる人の同類。

  7. >決死隊は敵兵の姿すら見ることはできなかった、

    「説得役は連合艦隊司令部である。ほとほと困惑した司令部は、『一億玉砕
    のさきがけになってもらいたい』と懇願した。
    しかし(中略)大和艦長を除く、すべての艦長が激烈な調子で愚劣な作戦と
    反対した。艦隊は沖縄までたどりつけないことはわかりきったきったことであり、
    そうであれば、来るべき本土決戦で、アメリカ軍と刺し違えるほうがよいのでは
    ないか、というのである。そういう反対論を一挙に鎮めたのが『われわれは死に
    場所を与えられたのだ』との一言だった。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ここに書いてあることは、桝本さんが書かれた記事がきっかけで、私も
    挙げてある本を読み込んで、知ったことです。ゾッとしました。

  8. >大日本帝国陸海軍が大好きだ、靖国神社は神聖だとおっしゃる方々

    特攻隊を生み出した軍部の暴走の背景は「一億玉砕」です。
    (一億総活躍ではなく)神聖だとおっしゃる方も玉砕です。

    知らない誰かがゼロ戦などに乗って、敵の戦闘機に突っ込むのは
    ではなく、自分達の身にふりかかる、つまり日本人が全て死ぬまで戦い、
    決して降伏しないということだったのである。一億玉砕、という凄まじい
    思想をある上での議論が、まっとうなものだと考えています。

  9. 特攻隊は日本と米国が双方戦時下であると認識した上での戦闘行為ですよ。テロは予告もなしに敵対する相手を戦闘員、一般市民の区別なく殺傷する行為です。特攻隊がアメリカの一般市民を巻き添えにしましたか?してないでしょ。一緒にしちゃだめですよ。

    • だから「軍服を着ているか私服かの違い」と言っているではありませんか。
      テロリストが学んび模倣したのは「方法と効果」です。
      ちなみに対アメリカ軍の戦法で、アメリカを困らせたのは、特攻隊(自爆)→ベトコン(私服)→自爆テロリスト(私服で自爆)。
      テロリストはちゃんと学習していて、特攻隊を賛美して思考停止している人よりリアリストなのです。

  10. 一日でも家族が日本で安寧に暮らせるならと命をなげうった特攻隊員と、信仰のために異教徒を殺害することを同列に考えることはできないな。

    特攻を賛美しようとは思わないが、特攻隊員の思いは尊重できると思うな。

    • >一日でも家族が日本で安寧に暮らせるなら
      と、特攻隊員が本当に思っていたとしたら、そいつは世間・情勢を見る目がなかっただけだと思います。
      「こんな戦法をするということは負けるは必定、しかしやむを得ない命令に従うのみ」
      というのが妥当なところでしょう。これは軍人であれば、現代の自衛隊員でも変わらないのではないでしょうか。後の人間がいたずらに美化するべきものではない職業意識だと思います。
      ジハード(聖なる戦い)で死ねば天国という思いが、特攻隊員と比べて「不純だ」ということもまたできないでしょう。

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