クマラスワミ報告書の全文を読んでみたら、大きな勘違いに気づいた

クマラスワリ報告書

僕はてっきり従軍慰安婦問題で日本の国際的評価を悪くしている、国連のクマラスワミ報告書なるものが、例の朝日新聞の吉田証言をめぐる誤報をもとに作成されたと今まで思い込んでいた。読売新聞や産経新聞、おまけに管官房長官や安倍総理までそれっぽいことを言っているので、そう感じてしまうのも無理はない。

朝日新聞め、吉田清治なる嘘つきやろうの虚偽の証言をもとに誤報を書き、それが原因で国連に特別報告書まで提出されてしまい、日本の国際社会における地位を貶めやがった。国益に反する大誤報ではないか、と怒り心頭であった。しかしアメリカなどから入ってくる情報と照らし合わせてみると、なんとなくニュアンスが違う。なんでだろ?

こういう疑問が生じた時には元の資料を直接読み込むのに限る。国連に提出されたクマラスワミ特別報告書なるものは、日本語訳も出ていてネットでも読める。全部で48ページにもなる長文をていねいに読んでいくのはなかなか骨が折れる作業だ。でも慰安婦問題を語る以上は一度は目を通しておいた方がいいので、みなさんにも是非おすすめします。

「クマラスワミ特別報告書」の全文はこちらをクリックしてください。

といってもめんどくさいと思われるので、結論から言ってしまおう。僕は48ページをくまなく読みながら、吉田清治の証言が影響を与えている部分を探した。ところが全体の中でほんの数行、たったの二カ所しかそれはなかった。それも本題とは関係のない歴史的背景の章にだ。あまりにも短いので両方ともまるまる引用しておこう。

さらに、強制連行を行った一人である吉田清治は戦時中の体験を書いた中で、国家総動員法の一部である国民勤労報国会の下で、他の朝鮮人とともに1000人もの女性を「慰安婦」として連行した奴隷狩りに加わっていた事を告白している。

もう一カ所のほうは、なんとこの吉田証言が信憑性に欠けると指摘しているのだ。

千葉大学の歴史学者秦郁彦博士は「慰安婦」問題に関するある種の歴史研究、とりわけ韓国の済州島の「慰安婦」がいかに苦境に置かれたかを書いた吉田清治の著書に異議を唱える。

たったこれだけである。そして全体としては公文書や信頼性のある文書を得られなかったので、この特別報告書は元従軍慰安婦の女性による告白を主な根拠として書いたものである、とハッキリ記されていた。この女性はいずれにしてもこの報告書を作るつもりでいた。つまり吉田証言の影響なんて殆どといっていいくらい関係なかったのだ。したがって朝日新聞が誤報しようが訂正しようが海外メディアにとってはどうでもいいことだったのだ。僕としたことがなんたる大きな勘違いをしていたのだろう。

朝日新聞が捏造に近い誤報をし、それを32年間も訂正せず、世論を大きくミスリードしてきた罪は極めて重いという僕の基本的な認識には変わりはない。たった2行とはいえ唯一の加害者側証言として引用元の吉田氏の著作は報告書に影響を与えているのだ。

ただ巷で一部の人が最近さわいでいる「朝日新聞の誤報=日本の名誉を国際社会で傷つけた原因」というまことしやかな説だけは、大きな勘違いであることを今日ハッキリと確認したのであった。

なお僕自身の従軍慰安婦や戦時性性暴力についての考え方は、こちらの記事「ベトナム戦争時に韓国兵は現地女性に性暴力を行っていた」も参考にして下さい。

※10月9日追記
ウオールストリートジャーナル紙は次のように言っております。
慰安婦問題、米国は吉田証言や朝日の記事に影響受けず

首相は3日、「朝日新聞の慰安婦問題に関する誤報により、日韓関係に大きな影響や打撃を与えた。国際社会における日本人の名誉を著しく傷つけたことは事実だ」とし、今後も継続的に事実を伝える必要性を強調した。

米国の専門家らは安倍首相が朝日新聞の役割を過大評価していると話す。また、事実を注意深く見ると「朝日新聞が報じた吉田証言が、慰安婦の悲劇にまつわるあらゆる見識に影響を与えたとする歴史修正主義者と安倍政権の見方に反論することができる」とも述べた。さらに専門家らは「安倍政権がこの見方に固執しているように見えることに、私たちはさらに困惑している」と付け加えた。

※12月23日追記
朝日新聞 慰安婦報道に関する第三者委員会による報告書より引用

上記のとおり、1990 年代以降 2014 年まで、「吉田清治」を強制連行の証言者として取り上げたのは、1992 年 8 月 8 日付ニューヨーク・タイムズの記事1件のみであった。しかし、同紙の記事は、証言の信憑性についても 問題提起する形になっている。ほかの 2 件は、強制連行の証言者として登場するが、吉田氏自身を直接引用して はいない。

吉田清治氏が、欧米メディアではさほど知られていないことは、他にも証言がある。東京在住ベテラン英国 人特派員 D. マクニール氏(エコノミスト)と J.マカリー氏(ガーディアン)は、「私たちは今年に入るまで吉 田を知らなかった。しかしこの 10 年ほど、韓国やそれ以外の国の、多数の当事者の女性たちにインタビューし てきた10」と、慰安婦報道の経験の所感を述べている。以上に見たとおり、結論としては、吉田清治氏は各国主 要紙には、きわめて限定的にしか言及されていないと認定できよう。

また特に興味深いのは以下の言及である。(同引用)

朝日新聞、および吉田証言の影響力が限定されているのに対し、もっとも発言が引用さ れ、動静が注目され、議題設定力を握っているのは、安倍晋三首相であったことも明らかになった。安倍首相は慰安婦問題における情報源としての発言引用数(引用記事数96本)、 報道全体での言及頻度(1141回)において他を圧倒しており、慰安婦問題における存 在感が際立っていた。このほか、歴代首相の中では、村山富市首相(引用20本、言及1 55回)や小泉純一郎首相(引用17本、言及200回)が目立つものの、安倍首相はこ の2人を大きく引き離している。また、安倍政権時には、右派の活動家や保守政治家等の 動向にも注目が集まる。第1次安倍政権時には、すぎやまこういち、屋山太郎、櫻井よし こ、花岡信昭、西村幸祐の5氏で構成された「歴史事実委員会」が、慰安婦問題について 07年6月14日付米ワシントン・ポスト紙に出した意見広告が注目された。第2次安倍 政権では、菅義偉官房長官、橋下徹大阪市長、籾井NHK会長らの発言が取り上げられ、 記事の全体量を底上げしている。したがって、政権ごとの報道量の変動を見ると、第1次、 第2次安倍政権時に際立って量を伸ばしていることがわかった。(中略)

以上のように、朝日新聞の報道が国際社会に与えた影響は限定的であったと認定した。 しかし、そのことは、本報告書が他所で指摘している同社の経営陣の判断の誤り、および 報道プロセスの数々の問題点そのもののインパクトを減ずるものではない。それらは、ま ったく異なる次元の話である。この点もここで改めて確認したい。

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15 comments on “クマラスワミ報告書の全文を読んでみたら、大きな勘違いに気づいた
  1. 朝日新聞を生け贄に捧げて、「ざまあみろ」気分にひたっている、日本政府の広報力はなんだったんだ、って話しですよね。
    この報告に対する反論は明らかに政府の責任じゃないですか。

    • 高菜のさん、コメントありがとうございます。
      慰安婦の証言だけを根拠にしているということは、ますますこの報告書に信憑性がないということになるわけですからね。

  2. クマラスワミ報告は、誤解に満ちた海外の慰安婦本をもとに記述された捏造報告です。裏付調査もせずに、人肉スープを飲んだとか、70人の慰安婦が殺されたとか、記載しています。もしも、それが事実なら、戦争犯罪として加害者を特定して告発すべきです。何故、当該報告書の勧告通りに韓国が国際司法裁判所に提訴しないのでしょうか?理由は、敗訴が確定的で、慰安婦証言の信憑性が乏しいからです。事実をつみあげれば、親に売られた売春婦が、民間業者が経営する売春宿にいたというのが大半と推測されます。いわゆるスマラン事件は、一部の暴走軍人が引き起こした戦争犯罪ですが、慰安婦は自由意思で公募するという軍のガイドラインに反しているので、軍が中止させています。これら被害者は、犯罪被害者なので相応の支援は必要ですが、国家意思で行った行為では無いので、国家賠償は不必要です。個別具体的な不法行為を立証して、当該加害者に請求すべきです。曖昧な証言で、国家賠償を請求するのであれば、名誉毀損で国が反訴すべきです。

    • 山田太郎さん、コメントありがとうございます。
      僕もクマラスワミ報告書は、裏付けのない捏造報告だと考えています。ハーグで争えば日本の勝訴でしょうね。

  3. まずは大手・朝日を痛めつけ、叩き潰せ。そうなれば後はもう、戦う気力をなくすだろうーーその作戦が見え見え。でも、止められない。この非力をどうしたらいいのだろう。

    • 倉嶋政子さん、コメントありがとうございます。
      たしかに朝日を潰せという意見の方が多いですね。作戦も見え見えです。
      でも、僕はその意見もそれなりに説得力があると思っています。
      朝日新聞の問題点は、今回の虚偽報道だけではなく、もっと根深く重いものがあると思うからです。
      どうしたものかと考えてしまいますね。

  4. 報告書では、慰安婦に対する悪行について日本人の証言がほとんどありません。軍が関与したという証言はありますが、虐待に関することはほとんどありません。吉田証言は、加害者側の証言として国際世論の形成に関与した可能性は十分にあります。吉田証言の裏付けを、報告者は取ろうとすれば簡単にできたはずなのに日本の学者の異議に留めているのは、おかしな感じがします。

    慰安婦に軍や政府が関与したのは、間違いないと思いますが、
    性奴隷として集めたのか、合法的な売春婦として集めたのかでは、法的や道義的な意味が違います。

    順法的に慰安婦事業を進めたが、一部の不心得者のために、婦人たちが悲惨な境遇に落ちてしまった、
    まったく申し訳ない、というところだと思います。

    • じせんさん、たしかに吉田証言ももちろん影響を与えたでしょうね。ただ全文に対してあまりにも少なかったことに驚いたのです。さらにこの報告書にはもっとひどいこと、信憑性のないことが山のように書かれています。僕としてはそっちの方をこそ問題にすべきだと考えています。

  5. Wikipediaによると、
    <1983年1月 吉田清治が『私の戦争犯罪-朝鮮人連行-』において韓国の済州島において慰安婦にするための205人の女性を強制連行したと告白。初めての加害証言となる。韓国の天安市に「謝罪の碑」を建立。韓国のテレビが「謝罪の旅」として1時間番組を放映。日本、アメリカなどで謝罪講演をして回る。>
    <1983年11月10日 『朝日新聞』が「ひと」欄で、吉田清治が「謝罪の碑」を韓国に建てたことを写真入で紹介。>
    <1997年3月31日、朝日新聞は吉田証言の真偽は確認できないと報道。>

     安倍首相は「朝日新聞が日本を貶めた」ように言いました、実際は朝日新聞が報道する以前に吉田清治は日本、アメリカなどで謝罪講演をしているので、朝日新聞は関係ないのです。
    しかも1997年3月31日、朝日新聞は吉田証言の真偽は確認できないと報道しているのに、今年になって、新たな独自調査もしないで調査吉田の関連部分を撤回したことは理解に苦しみます。
     吉田の「証言」が嘘だったとしても、韓国の天安市に「謝罪の碑」を建立したのが事実なら、何のために碑を建てたのでしょうか。本当に謝罪したかったのか、それとも著書の宣伝のためか、本人が亡くなった今、知ることはできません。

    • お山の狸さんコメントありがとうございます。
      朝日新聞 慰安婦報道に関する第三者委員会による報告書が出たので追記しました。
      これが真相のようです。
      おっしゃるように安部首相が朝日新聞に責任をなすりつけているのは、明らかに間違いのようですね。

  6. このクマラスワミ報告は始めから何か怪しい、彼女は利用されているのでは、50年も前の出来事を掘り出すより、ベトナム戦争や朝鮮戦争時の慰安婦を調べた方が証人や証拠が多く見つかるはずなのに、なぜ日本なのでしょうか。

  7. クマラスワミ報告書の全文を入手できてありがたかったです。
    以下、あくまでも個人の意見として申し上げます;、

    ①内外のジャーナリストがその根拠としている慰安婦とされる人たちの証言ですが、それらは当人たちがこの問題の正に当事者であるため、その証言は正当な根拠足り得ません。事案の正否を一方の当事者の主張のみから判断することは、他方の当事者を無視することになり、これはアンフェアです。米国メディアが言っていることは、このことを指していると推察します。

    ②ところが、吉田清治という固有名詞はどこにもなくとも、”日本は軍隊で性奉仕させるために、普通の現地女性たちを誘拐して性奴隷にした”と喧伝されています。世界のメディアは、確証はなくとも、性奴隷にされた不幸な女性たちがいるというストーリーを満足させるために、吉田清治の偽証を”隠用”しているのが現実です。

    米国は戦争末期に日本に核攻撃と都市への無差別爆撃を行い、100万もの非戦闘員を虐殺しました。数々の汚点を隠ぺいする目的から、日本の頭を「歴史戦」で抑え込んでおくために、意図的に中国や南北両朝鮮に加担していると見ます。
    まあ、カネの力で転がされている一面もあるでしょう。

    ③一番厄介なのは、”日本人”や”在日外国人”の中の、色々な思惑から日本をやり込めてやろうと画策している敵性集団の存在です。慰安婦問題に限りませんが、日本は内外に「歴史戦」上の敵がわんさかいることを自覚しないといけません。

    今のところ日本は負け続けていますが、「歴史戦」には時効はありません。最後に日本の主張を認めさせるために、いま勇気をもって日本の主張を発信し続けるしかありません。蛇の道は蛇です。政府はじゃんじゃんカネを使って、失地を挽回してほしいですね。

  8. 国連やユネスコなど他国に影響を受けて発言する方が多いように感じます。南の国会議員に北寄りの発言する人が多いように聞きます、日本の国会で北寄り、南寄りの発言する人が多かったりアメリカの州議会の中にもはびこっています。
    今のわけわからん行動をする彼らがこんな長期ビジョンを立てて他国を自国の思いどうりに動かそうとする仕組みを作り上げてきたことに驚かされます。
    彼らの誤算はネットがここまで短期間で世界中に行き渡ったことだと思います。
    我々としては、ネットが広がってくれてよかったと思う反面、これを使って
    短時間で世界的に影響を与える「悪」がはびこる事の怖さも注意しなければと
    思うところです。

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