2024年4月19日

“今この時の”自由世界の旗手はマクロン次期大統領だ

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4月10日のフランス大統領選では、現職のマクロン候補と極右のル・ペン候補が24日に実施される決選投票に駒を進めました。

ふたりは2017年の大統領選でも争いました。そのときの決選投票ではマクロン候補が

66%の得票率で圧勝しています。

今回の決選投票では両者が競り合う展開になっています。マクロン候補は、ウクライナ危機でプーチン大統領との対話を続ける態度が評価され、前半は極めて有利に選挙戦を進めました。

ところががその同じ危機の影響で、エネルギーや食品価格を筆頭に物価が高騰し社会不安が急速に高まりました。

ル・ペン候補はそこを捉えて、物価対策を旗印にキャンペーンを張り、中・低所得者層を取り込んで急激に支持を伸ばした、という形です。

ル・ペン候補は決選投票でも、物価高や購買力などの国内問題を強調して選挙戦を戦うことが確実です。それはウクライナ危機をほぼ無視して、フランス・ファースト主義に徹するということです。

一方のマクロン候補は、これまでのように欧州の中のフランス、ひいては世界の中のフランスの責任ある役割、というテーマを前面に押し出して戦うはずです。

彼はこれまで力を注いできたウクライナ危機への強い関与を継続し、フランスの指導力を世界に示そう、と国民に呼びかけるでしょう。

ドイツのメルケル前首相が欧州政治の表舞台から消えた今は、マクロン候補こそ自由主義世界の木鐸ともいうべき存在です。

独裁者のプーチン大統領に対抗する欧州の強い指導者は、マクロン大統領のほかには英ジョンソン、伊ドラギの両首相、EUのフォンデアライエン委員長などがいます。

だがジョンソン首相はBrexitを主導した反EU主義者です。単身キーヴに乗り込んでゼレンスキー大統領を激励した行動力はすばらしいが、正体がトランプ主義者に近い存在ですから100%は信用できません

イタリアのドラギ首相は、元欧州中央銀行の辣腕総裁という肩書きと、その肩書きに支えられた手堅い政権運営が評価されて、国内はもちろん国際的にも一目置かれてはいます。

しかし彼には、政治家に必要な高いコミュニケーション能力が欠けています。それは仲介能力が低いというのとほぼ同義語です。対話による停戦が喫緊の課題であるウクライナ危機のさなかでは、先導者を務めるのは厳しそうです。

フォンデアライエン欧州委員会委員長も、海千山千の怪物プーチン大統領と丁々発止にやりあうには、少々役者不足と言わざるを得ません。

3人のほかにはドイツのショルツ首相もいますが、彼はエネルギー問題でロシアに首根っこを押さえられていて、今のところはほとんど身動きできずにいます。存在感が巨大だったメルケル前首相に名前負けしている弱さもあって、リーダーシップを発揮できていません。

西側連合全体のリーダーはむろんバイデン米大統領ですが、彼はプーチン大統領を口を極めて罵るばかりで、今のところは対話からは遠い位置にいます。

そうして見てくると、フランス国内では‘金持ちのための大統領’などという批判もあるマクロン候補ですが、怪物のプーチン大統領と対抗できるのは、今はやはり彼が最も相応しい。

マクロン候補を抑えてフランス大統領になるかもしれないル・ペン候補は、穏健化路線の仮面を剥ぎ取れば、プーチン信奉者でありトランプ追従者です。彼女はここイタリアの極右指導者サルヴィーニ、メローニ両氏とも親和的です。

それらの反国際協調路線主義者は、各国それぞれの事情で立場に微妙な違いはあるものの、強権政治を志向する傾向がある点で中国や北朝鮮にも近い。

もしもル・ペン政権が成立した場合、ウクライナ危機に対しての欧州の結束は乱れ、米バイデン政権との仲もギクシャクする可能性が高まります。

そうなれば、言うまでもなくそれは、プーチン・ロシアへの援護射撃となることが確実です。

ル・ペン候補は彼女が牛耳る極右政党の名前を、攻撃的なイメージが強い「国民戦線」からよりソフトなイメージの「国民連合」に変え、自身の過激な言動にも封印をして穏健化路線を進めました。

それは「脱悪魔化」とも呼ばれてきた策です。

支持の拡大を図るそれらの動きはしかし、あくまでもル・ペン候補と極右政党の「死んだ振り」政策に過ぎません。彼女の正体は「脱悪魔化」というおどろおどろしい言葉が示すように悪魔的であり、彼女の政党も好戦的な極右勢力であり続けています。

それは半島北部の独立を目指したここイタリアの北部同盟が、より全国区の協調路線をイメージさせようとして、党名を「同盟」と改名したことと同じ姑息な手段です。反移民・反イタリア・反EUの同盟は、「北部同盟」時代と中身は何も変わらず極右の剣呑な政党であり続けています。

彼らはトランプ主義者であり白人至上主義者です。加えていえば日本のネトウヨ・ヘイト系排外外差別主義者らとも親和的な政治勢力です。

またル・ペン候補もサルヴィーニ同盟党首も、はたまたトランプ前大統領も、いずれも隠れなきプーチン信奉者です。その周囲には中国もぴたりと寄り添って、隙あらば取り入り取り入れようと画策しています。

マクロン大統領は、フランス政界の分断をうまく捉えて極左と極右を痛烈に批判し、彼が「責任ある中道勢力」と呼ぶ層をまとめて国を引っ張ってきました。しかしその手法は選挙では、2017年ほどの明確な成功には至らず、ル・ペン候補の激しい追い上げに遭っています。

選挙戦の出だしではマクロン候補が大差でリードしていると考えられていました。しかし、先に触れたように、ウクライナ危機がもたらす疲弊と急激なインフレが社会不安を招き、それへの対応を最優先すると訴えるル・ペン候補に庶民の支持が集まりました。

世論調査によるとフランスでは、極左と極右を合わせた過激派への国民の支持率が5割を超えています。それはここイタリアの状況にも似ています。もっといえば、アメリカのトランプ主義勢力、英国のBrexit支持派、などとも通底している現象です。

さらにいえばそれらの政治勢力は、たとえ表立ってその素振りを見せていなくても、潜在的にはロシアのプーチン大統領とも親和的な政治力学です。

だからこそ真っ向からその勢威と張り合うマクロン大統領の存在は、自由と民主主義にとっての、今このときの最重要な拠り所なのではないか、と考えます。

 

 

 

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