トランプ大統領当選の波動は、第三次世界大戦を引き起こすレベルだ

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ドナルド・トランプ氏が9日、米大統領選において勝利を決めた時、国内外に巻き起こった慌てぶりは皆さんごよく存知のとおりです。米国メディアは開票1時間後にもクリントン勝利70パーセントと報道していましたから、僅差での大逆転という結果に面した時、ろくなコメントが用意されていませんでした。メディアとワシントンDCの敗北です。想定外とコメントしながら、トランプ氏勝利の投票現象について、その理由を分析するのが関の山でした。ましてや日本人の僕らが、ヒラリーの敗因分析をしたところで、なんの利益にもなりませので割愛します。

トランプ候補は「イスラム教などの宗教差別」「女性など人権感覚の欠如」「アメリカ・ファースト」など選挙期間中の暴言は目立っていましたが、いざ現職の大統領になればそんな暴言はとるに足らないこと。ホワイトハウスの優秀な官僚からレクを受け、この二ヶ月のあいだに勉強し、就任の頃にはまともになっているだろう。との楽観的な見方をする人も多いです。ドイツは「差別を撤廃し、自由と民主主義と人権を守るなら、付き合ってあげてもいいわ」と自信を持ったコメントを発表しました。せめてこのくらいのことを日本も言うべきでした。ところがさっそく御用聞きにポチが馳せ参じています。トランプ氏が来年1月以降発表する声明を待つまで、予断は許されませんが、大統領の権限は過小評価してはいけません。

日本の政治家先生はいわばお飾りでした。実際に日本を動かしているのは事務方の官僚。そもそも日本のように無知な政治家を、官僚テクノクラートが徹夜で議会の想定問答集を書き、レクを繰り返して成り立ってきた国とは制度が違います。アメリカでは大統領が変われば、各省庁の官僚以下一斉に取り替えられます。日本でも小泉改革で政治主導を目指して内閣人事局というものを作りましたが、依然として官邸は官僚に頼らざるをえないのが現状です。ホワイトハウスは違います。議会と拮抗する恐るべき巨大な権力が、大統領のもとに集中しています。大統領には秘書に常に持ち歩かせている、フットボールと呼ばれる核ミサイル発射ボタンの入ったアタッシュケースがあり、パスワードを打ち込めば4分以内に世界のどこでも核攻撃できます。トランプという政治経験もなく軍属経験もない男に、この核のボタンを握らせたのは多くの米国民もリスクと捉えていることでしょう。

実はそんなことは取るに足らない杞憂だと、僕は考えています。本当の恐ろしさは、これから始まるのです。それも米国ではなくEURO各国アジア各国で始まるのです。

それは「保護主義」と呼ばれる反グローバルな概念を、これまでのグローバライゼーションから180度変えて、強く打ち出している点です。トランプ氏は他所の国がどうなっても知ったことではない、アメリカに利益のあることだけする、という極めて内向きな姿勢を明確に表している点です。イギリスがEUROを離脱したのと、非常によく似た構造です。トランプ氏の当選に呼応するかのようにフランスの保護主義政策の政党、イタリアの内向きな政党が、反グローバル革命を起こしているのです。それぞれの国が、それぞれの国益のみを追求したらどうなるのでしょうか。僕は以前に書いたブログで、トランプ氏の根っこはモンロー主義の復活だ、と書きました。今の時代にそんなことを各国が始めたらどうなるか。

その答えは国連の弱体化、ひいては第三次世界大戦以外考えられません。第二次世界大戦後、国際連合という軍事同盟の形で世界中の国々での統合が試みられました。ユナイテッドの発想です。ドメスティックに走っては戦争を食い止められない。小異にはこだわらず大同団結しようという、戦後ならではの理想をうたったのが国連憲章ですが、2000年代に入りユーゴスラビアの紛争も解決できず、限界を露呈してしまいました。EUも一つの国ごとにではなく、ユナイテッドされた地域の繁栄をもたらす、統合の進化として生まれました。これらの世界的な枠組みが、今崩れていくのが恐ろしい気がします。各国のエゴと民族主義、それらが世界中で火を噴くと、紛争の危険が増します。

それぞれの国が、それぞれの利益だけを追求していく保護主義が、公の場で是となっていくということは、戦後70年かかって築き上げてきた私たちの国際協調の路線を振り出しに戻します。トランプ氏の主張は「もはや世界の警察官を務めることは出来ない」というもので、世界中の地域に張り巡らす軍事網を縮小するという、ハッキリとリーダーシップを放棄した実に70年ぶりの方向転換です。この影響で世界中の国々が国際協調よりも保護主義を取り、内向きの政策を担うようになれば、もはや国連の出番さえなくなるかもしれません。そうなると第三次世界大戦への道を、ゆっくりと歩み始めたと言っても過言ではないように思います。

なぜアメリカの分断とアメリカによる「世界の警察官」の辞退が、世界の安全保障に影響をあたえるのか。なぜ第三次世界大戦にまで、なだれ込む恐れが有るのか。それはイスラム教徒とキリスト教徒の全面的な対立に直面することから始まるでしょう。そして大国である中国とロシアの二国が、アメリカなき後の新しい秩序で主導権を握るために、積極的に乗り出してくるでしょう。西側諸国は下手をすればNATOの枠組みさえ揺るがされ、条約機構に左右されない各国は、自分たちの正義のみを追い求めて、世界大戦の前夜のような孤立主義、民族主義に舞い戻ってしまいます。

日本はどうするべきか。彼らが「アメリカ・ファースト」というなら、我々は「ジャパン・ファースト」と答えるしかないでしょう。優れた官僚が安倍首相に妥当な想定問答集を作成し、良い意味での戦後レジュームからの脱却を図ることだってできなくはない。日米同盟については、今、見直すめったにないチャンスを得たとも言えるのです。リスクにもチャンスにもなりうるトランプ政権。どうこなしていくべきかは、優秀なる日本の官僚テクノクラートに期待するのみということになりましょう。日本はこれまでもアメリカの大統領にひどい目に合されている。ひどいときなど原爆を二発も打ち込まれた。それに比べればトランプはマシな方かもしれないです。オタオタすることは無い気がします。

どうでも良いけど我々はハリウッド映画で、シークレットサービスに囲まれた米大統領は、パーフェクトな男として描かれているのを見て育った。そのイメージ定着効果は力強い。トランプはまずジョギングをし、ジムにかよって、引き締まった身体を見せるようにしてほしいです。本当にどうでもいいことなんだけれど。

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2 comments to “トランプ大統領当選の波動は、第三次世界大戦を引き起こすレベルだ”
  1. 内向きな「ポピュリズム」を取り入った指導者は、例えば竹島上陸を敢行した李明博大統領以後の大統領が竹島上陸をしない選択肢がなくなり、択捉島に渡ったメドベージェフ首相以後の首相もより強硬な態度になるでしょう。
    いったん内向き(=右翼排外主義)のポピュリズムのリミッターを外したが最後、例えトランプ大統領が何らかの政策失敗をして2期目がなかった場合も、彼が最初の「暴言」政策をちゃんと実行しなかったからだと攻める、より本気な過激ポピュリストしか政権を取れないという連鎖が始まってしまう可能性が高いです。
    行き着く先はヒットラーナチス政権です。彼らはレガシーとして「アウトバーン」を残しましたが、トランプまたはそれ以後の歴代大統領の責務として、「アメリカ版万里の長城」建設続行が科せられる可能性も否定できません。
    そして、ベルリンの壁の崩壊のようにこの「長城」が崩れるときは、星条旗の星の数が変わっているのかも知れません、いや国旗そのものも・・

    • 「内向きのポピュリズム」が一度でも世界の潮流として認められてしまうと、政治家というものは引っ込みがつかなくなります。より過激な方へと流れ始め、自由と平等と基本的人権の尊重を世界の共有する理念として重視してきたインテリ政治家は、軒並み実行力がないとして票を集められなくなります。
      恐るべき愚衆民主主義の始まりです。そしてそれはアメリカのみならず、世界各国に伝染すると思われ、それが一番危惧すべきところだと思います。

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