ニュースの不思議「質問コーナー」に頂いたお便りから

NHK-Broadcasting-Center-01

先日、当サイトの「質問コーナー」に、福島県在住の瓜生克美さんから、ニュースに関する素朴な疑問を投げかけていただきました。お便りを紹介します。

早速ですが、お教えください。

最近ニュースを見ていますと、「~とみられる。」「~と思われる。」「~のようなもの。」という表現をよく耳にします。例えば「外国人とみられる男に、刃物のようなもので刺された。紐のようなもので首を絞められた。」など。あまり良いたとえではありませんね。申し訳ありません。実際に事実が確定していないのでこのような表現となるのでしょうか。

「刃物のようなもの。」はまだしも、先日は、「サバイバルナイフのようなもの。」というアナウンスもありました。また、「目出し帽のようなものをかぶった男とみられる。」との報道に至っては、どう考えればいいのでしょう。目出し帽かどうかは見ればわかる話でしょうし、それをかぶっているのが男とわかっているのに、このあいまいな表現は無責任に聞こえるのは私だけでしょうか。責任が取れないのなら、具体的な部分を、あいまいな表現を用いてまで伝える必要性があるのか疑問に思えてきます。単に事実のみを伝えても良いのではないでしょうか。

もちろん、私は報道に携わることのない人間ですので、それこそ無責任に発言することは避けたいと思います。しかし、このような表現が、NHKをはじめ民放各社で当然のように行われているのには、素人の私からすると、やはり違和感を感じてしまいます。

NHKでは、「大手電機メーカー」などという表現をよく聞きます。言葉ではメーカー名を出さないのですが、その人が着ている作業服に会社名が刺繍してあったり、背景に会社名が出ていたり。NHKは昔からメーカー名を出さないよう、飲み物の瓶や缶にテープを張っていました。影響力の大きい組織の配慮だと思っていました。しかし、先日のポケモンゴーのニュースでは、それこそポケモンという商標を前面に出していました。あれは報道と同時に宣伝となるのではないでしょうか。一貫性を感じないことがよくあります。

もちろん、これを突き詰めると何も報道できなくなりますから、仕方がないのでしょうが。この事項については、何か指針があるのでしょうか。今後、池上さんにもこのことをお教えいただきたいと思っております。大勢の方からお教えいただいて、疑問を解消したいと考えておりますので、ご無礼をお許しください。

うーん。なかなか鋭い感受性でニュースをご覧になっている方のようですね。なので、僕にわかる範囲でお答えすることにしました。不足があれば補足してください。

まず最初に「サバイバルナイフのようなもの。」といった、曖昧な表現が目につくのは、おっしゃる通り事件がまだ捜査段階で、詳細な事実が確認されていないことであり、あくまで目撃者などにはそう見えた、という情報を基にしているので、「のようなもの」という表現を使っているのです。しかしあまり多用すると、確実性のない情報ばかり無責任に流していると思われて、あまりよろしくありませんね。

実はこのような不確定な表現がマスコミで使われることが多くなる背景には、ニュースが記者会見における警察の発表を、そのまま流しているというのも原因の一つではあります。警察は取り調べ中の案件に関してはとても慎重で、「のようなもの」「と見られる」と言った、不確定な表現をします。また紋切り型の表現も多く、「目出し帽のようなものをかぶり」「バールのようなものでこじ開け」などよく使われます。今時「目出し帽」と言ったものを商店で見かけることはなかなかないですし、「バール」に至っては、バールって何ですか?という質問を受けたこともあるくらいです。警察発表をそのまま流すのではなく、金属製の棒状の工具でこじ開けた、などと記事を工夫することも必要でしょう。しかし曖昧な表現をニュースで聞いた時、それは「事件が捜査段階である」という事実を同時に伝えている、と受け止めることができます。捜査がどれくらい進んでいるのかの目安にもなる、と思ってこれからニュースを見ると良いでしょう。

次にNHKが、特定の商品名や企業名を出すか出さないかは、それぞれのケースによって判断されます。決して商品名や企業名を全く出さない、というわけではありません。ただ単に、ドラマの中で主人公がビールを飲んでいるようなシーンで、特定の銘柄のラベルを見せながら美味そうに飲んでいたら、それは宣伝になります。逆に企業名を出さなければ意味がないケースもあります。経済ニュースなどがそうです。「ある会社の株式が暴落した」というニュースの時、その会社名を出さなければ意味がありません。また特定の企業から個人情報が大量に流出した、といった事件を扱う時も、企業名を大々的に出します。社会的に大きなニュースになっている時も、企業名を大きく出すことがあります。

「iPhoneの新機種の売上初日に、長蛇の列ができて街が混乱していた」、などというニュースの時は、アップル社の名前も出しますしリンゴマークのロゴが画面で大写しにしました。某会社の某スマホという表現では、アメリカの突出した企業が経済界を席巻している、という経済ニュースとして成り立たないからです。ご指摘の「ポケモンGO」のケースも、このゲームで遊びながら運転していて交通事故で死者が出た、などの社会性の高い特殊なニュースだと言えるでしょう。これも某ゲームをしていて事故が多発している、といったゲーム名を隠した表現では注意喚起になりません。具体的にゲームの名称を出すことが、ニュースにとって重要な意味を持つと考えられます。

ニュースや番組では、一つ一つ事情が異なり、その度に企業名や商品名を出すか出さないかの判断を行っている、という事情があるのです。一概に商標を出すことがいけないのではなく、出す必要性があるかどうか、を十分に検討することが、ニュースのクオリティを高めていくことになるのです。そんな裏事情も考えながらニュースを見ると、より深い理解が出来ると思います。

こういったニュースの見方については、拙著「ニュース、見てますか」(ワニPlus新書)にたくさん書いてありますから、瓜生さんにも是非とも読んでいただけると幸いです。(と、ちゃっかり宣伝しちゃったりなんかして)

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