報道の自由度ランキング72位が意味する日本の危機

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世界180カ国を対象に、国際NGO「国境なき記者団」が先日発表した、国別の報道の自由度ランキング2016年版によると、日本は6年連続低下して過去最低の72位を記録しました。上のグラフは2015年までなので、61位となっていますが、これよりさらに11位も下がったことになります。「報道の自由」がなぜそんなに重要なのか。それさえピンと来てない人も多いようなので、それはこれから説明します。まずは主な国別のランキングの地図を見て下さい。これも2015年のデータです。

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フィンランドの1位は今年も同じで1位をキープしています。続くノルウェー、デンマーク、オランダといった北欧諸国が去年と今年で多少の差こそあれ上位を占めています。これらの国々は、「報道の自由度」が常に高い、つまり政権をはじめとする何者からも圧力や検閲を受けず、自分自身の意見を自由に述べられる国々だと言えます。一方最下位に近い176位には中国が、179位には北朝鮮がランキングされています。中国は中国共産党がテレビなどすべてのマスメディアを支配し、インターネットも閲覧制限があります。北朝鮮に報道の自由が無いのは、みなさんご存知の通り、言うまでもないでしょう。

まさに「報道の自由度」とは、その国の「民主主義度」を図る尺度だとも言えます。アメリカは41位で英国は38位です。北欧諸国に比べてアメリカが低いのは、国防総省がインターネットなどの通信をエシュロンというシステムで盗聴しているため。英国ではMI6などスパイ組織が関与しているためだと言えるでしょう。それでも新聞やテレビでは政権批判も含め、自由闊達にジャーナリストが議論を公開しているため、日本の72位には大きく差をつけています。ちなみにお隣の韓国は70位で、残念ながら日本の方が下です。

再び上の図を見て下さい。日本の順位は鳩山民主党政権が誕生した2009年、過去最高の11位を記録しています。与野党逆転できるくらい自由に、政権批判の意見を述べられると判断されたのでしょう。しかし2011年には福島第一原子力発電所の事故の際に、隠蔽など発表の不透明さを露呈し、22位まで順位を下げます。その後安倍政権になってからは「報道の自由度」は急降下します。特定秘密保護法制定でさらに下がり、NHKや報道ステーションなど報道機関への安倍政権からの圧力、高市大臣の停波発言などの影響で、6年連続ワースト記録となってしまいました。

日本はフィンランドやノルウェーのような自由な国から遠ざかり、中国や北朝鮮のような言論統制された国へと近づいています。ここまで見てきても、「言論の自由」がそんなに重要なのか、たかが海外のNGOが勝手に決めつけているだけじゃないか、と反論する人がいます。今そこにある危機だということに気づいていないのです。

これらのデータは憶測やイメージで適当に順位を決めているわけではありません。実際の国勢を正確に反映しています。たとえばエリトリアが180位と最下位なのは、20年以上、独裁政権によって自由な報道を行う機会が存在せず、イサイアス大統領は締めつけを緩めるつもりはないからです。日本の事情も、このところ私が書いた記事「キャスター3人の降板は首相官邸からの圧力によるもの」や坂井万利代さんが投稿してくれた「古舘伊知郎さん降板の本当の理由」に書かれている事実と、ピッタリと符合します。

報道の自由・表現の自由は、集会の自由などとともに日本憲法にハッキリと書かれています。為政者に問題があると国民が判断した時、そのことを指摘する自由は、民主主義に不可欠なものです。その判断材料として、為政者がどんな政治を行っているかを、広く国民に知らせることは、報道機関の重要な役目でもあります。にも関わらず日本の「報道の自由」が低くなったのはなぜでしょう。安倍晋三首相が独裁者だからでしょうか。もちろんそれもあります。でもそれだけでは、民主党時代にも順位が降下に転じた理由を説明できません。

僕はこの「報道の自由」の低下は、国民一人ひとりの意識と、報道機関の矜持に問題があると考えています。一昨年の朝日新聞の誤報事件の時に、安倍首相が行った発言の中に、唯一さすが安倍さんだ、もっともなご意見だ、と僕が高く評価している発言があります。それは以下の様な発言でした。

私の圧力ごときに萎縮するような報道機関でどうする!

まさにおっしゃるとおり。報道機関が政権に寄り添うようでは、そもそも本来の役目を果たし得ません。政府からの圧力に萎縮して放送内容を変更したり、首相官邸の意向を忖度した編集をしたり、そういったことをしているのはマスコミ自身です。マスコミは断固として政権から距離を置いて、冷静に中立公正な報道をしなければなりません。時には官房長官からクレームの電話も入るでしょう。自民党から編集内容に対する要請文書が送られてくるかもしれません(事実、報道ステーションのプロデューサー宛に送られた)。それでもキッパリと無視して自らの良心のみに従った報道を、貫き通さなければならないのです。政権、右翼、左翼、あらゆる圧力に対して、跳ね除ける勇気が必要なのです。

ネットで自由に発言ができるようになった今、一人ひとりの国民にも、同じことが言えると僕は考えています。

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2 comments to “報道の自由度ランキング72位が意味する日本の危機”
  1. フォークランド紛争でイギリスの公共放送BBCは一貫して「連合王国軍」と伝え「我が軍」という表現をしませんでした。戦時(武力衝突)なので折しも愛国心国内では高まり、「我が軍」といわないことを不満に思った下院議員が「なぜ我が軍といわないんだ、BBCには愛国心がないのか!」と食ってかかったことがありました。
    BBCの会長(NHKの籾井さんと同じ立場)はキッパリとこう言い放ったのです。
    「愛国心について、あなたにあれこれ言われるいわれはない」

    以上、確か池上さんの番組で聞いて「ええこと言わはるな」と感心したのを覚えています。

    • そうですね。アメリカの場合、イラク戦争の時にアメリカ軍のことをCNNは「合衆国軍」と呼び、FoxNewsは「我が軍」と呼んでいました。Foxはカメラマンを戦車に同乗させて撮影し、アメリカ軍目線の映像を撮っていました。両方ありだから、まあ中くらいの順位なんですね。

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