2024年4月17日

あの穏健なトルコがなぜロシア機を撃墜したのか

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ロシア犠牲者トルコ

「♪飛んでイスタンブール・・・」

ちょっと古いかもしれませんが、僕がかつて観光で訪れた時には、トルコは中東の国々の中でも穏健派で、素敵な親日国であった印象しかありません。それがロシア軍機を撃墜したというニュースは、一瞬、耳を疑いました。それもわずかに17秒くらい領空を侵犯しただけで撃墜し、パラシュートで降下中の兵士まで下から射殺するという(ジュネーブ条約違反の戦争犯罪です)暴挙に出たのは、一歩間違えれば大規模な世界大戦に発展するかもしれない、非常に危険な行為だったのです。

国際法上は「国籍不明機が領空を少しでも侵犯したら、撃墜していい」ということになっています。しかしトルコ軍は本当にロシア機だと分からなかったのでしょうか。それは常識的に見てあり得ません。おまけにジュネーブ条約に違反して、パラシュートで降下中のパイロットを射殺しています。それではトルコとロシアの間に恨みつらみというか確執はあったのでしょうか。それはあったのです。今はたまたま共通の敵「イスラム国」というテロリスト集団に立ち向かうため、一見同じ方向を向いているように見えます。しかしそれは一時的なものです。

もとはといえばトルコは今のような小さな国ではありませんでした。セルジュクトルコ、オスマントルコ、と世界史に懐かしい響きを持つ国。シュメール文字を使った古代文明まであり、オスマン帝国時代には中東のみならずイタリア半島を除く地中海全体を支配していました。帝国と名の付くとおり「帝国主義」の国で、それはすなわち周囲を制圧しながら領土を拡大していく強大な力だったのです。一方ロシアも、今でこそ名前は共和国になったものの、もともとはロシア帝国でした。ソ連が崩壊するまで、それはソビエトという共産主義の名のもとに領土を広げていく、「帝国主義」そのものでした。

制度をちょっと変えただけでは、その国の本質までは変えられません。「帝国主義」は現代の国際安全保障の観点から理論的に否定はされていますが、ロシアのプーチン大統領のやってきたことをみると、ソ連崩壊で独立した国々を、またジワリジワリと、帝国の支配下に置こうとしているかのように見えます。おとなしかったトルコも、心の底にはオスマン帝国復活への野望が眠っています。トルコのエルドアン大統領は、ここにきて急激に独裁色を強めています。ロシアがシリアのアサド政権の見方についているのも、トルコとしては許しがたいし、クリミア戦争でロシアと闘った記憶も生々しいものがあります。冷戦中はソ連に向けたミサイルの基地でした。要するにトルコはロシアが嫌いなのです。

帝国主義は滅んではいない。人類が理性で押さえ込んでいるだけだ。そんな気がします。中国はラストエンペラーで皇帝の座はなくなりましたが、国家主席と言う名の皇帝が君臨しているようです。大国は、とくにかつて大帝国としての歴史ある大国は、少しずつでも膨張していく作用が働く。全く根拠はありませんが、性(さが)として、そういうものを持ちあわせているように、僕は感じています。大国の力学、とでも呼んでおきましょうか。アメリカの場合は歴史は浅いですが、GO WEST!フロンティア・スピリッツが、ハワイを超えて沖縄まで届いているようです。

このような帝国主義と帝国主義のぶつかり合いの場合、ちょっとした火花が第三次世界大戦の導火線となる可能性も、そうとう高かったと僕は考えています。今回、幸いなことにプーチン大統領は冷静でした。国内経済の悪化などで頭を抱えていて、若干落ち込んでいるようにも見えました。たまたまそんな状態だったから、開戦の火蓋は切って落とされることは、なかったのかも知れません。トルコのエルドアン大統領も、「あれは良いことではなかった」と謝罪ともとれる声明を出しました。両者ともに大人の振る舞いで事なきを得たのです。

第一次世界大戦の導火線となったサラエボ事件を持ち出すまでもなく、歴史を見るとほんのささいなことがきっかけで、戦争が起こっています。なので敵機を撃墜しパイロットを射殺したと聞いて、僕は身の毛もよだつ思いがしました。今回ばかりはプーチン大統領にウオッカを一杯おごりたい気分です。

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1 thought on “あの穏健なトルコがなぜロシア機を撃墜したのか

  1. 領空侵犯というのは、領「海」侵犯とは格段に危険です。船は陸上には上がってきませんが、航空機はあっという間に陸地の主要部に到達するからです。
    フィリピン西方「スプラトリー諸島」上空でフィリピン空軍機が中国戦闘機に撃墜されたら、双方&アメリカは冷静でいられるでしょうか。こいつは心配です。

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