川崎市老人ホーム3人転落死にみる介護の闇

Sアミーユ川崎市

「警察は事故・事件の両面から慎重に捜査を進めています」マスコミは今の時点でこう伝えていますが、僕は警察ではないので作家らしく事件と断定して、話を進めていきたいと思います。偶然の事故としては、あまりにも不自然だからです。

事件は去年2014年の11月から12月にかけて、川崎市幸区の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で80代から90代の要介護のお年寄り男女3名が、わずか2ヶ月の間に連続してベランダから高さ1メートル20センチの手すり越しに、同じ中庭に転落して死亡したものです。転落の時刻は午前2時前から4時といった未明であることも共通しています。11月に転落した男性と12月9日に転落した86歳の女性は、なぜか4階の同じ部屋のベランダから、続いて12月31日に転落した96歳の女性は、ちょうどその部屋の真上にある6階の部屋のベランダから、同じく手すりを越え転落しています。いずれも遺書はなく、自分の部屋ではない部屋のベランダからの転落です。

まず同じ施設で2ヶ月の間に転落事故が3回も連続して起こるとは、あまりにも不自然で考えられません。そもそも要介護のお年寄りが自力で1メートル20センチもの手すりを乗り越えることができたのかも疑問です。転落したお年寄りの身長は140センチから145センチくらいだったと言いますから、乗り越えようと思ったら相当な腕力が必要になるでしょう。

ではどうしたのか。僕は他殺だと見ています。ズバリ殺人事件です。転落のあった日の当直夜勤は偶然にも同一人物、20代の男性職員Aが担当でした。この男性は今年5月に男性入居者との金銭トラブルを起こし、懲戒解雇になっています。僕はこの元職員Aを犯人だと見ています。逮捕できるかどうかは神奈川県警の手腕にかかっていますが、物証がないので難航しそうです。結局容疑を固められなかった、なんてのは勘弁してほしいです。

組織として致命的に言い逃れができないのは、昨年12月に転落死した女性について、その事実を川崎市に届け出たのは今年の9月。なんと9ヶ月も隠蔽していたのです。すぐに届け出るのはまずいと思う何か理由があったのでしょうか。7月には入居者の家族からの通報で発覚した、元職員Aとは別の職員4人が、介護すべきお年寄りに対して「死ね」と暴言を吐いたり、頭を殴るなど暴力を振るった事実が明るみに出て、川崎市から懲戒指導を受けています。なんとなく邪悪な空気が、元職員A一人だけではなく、施設内全体に漂っていたのではないかと疑わしく思えてきます。

さて、ここからが僕の考えていることです。殺人だとすると、元職員Aの動機は何か。月に22万も払って24時間面倒を見てくれる介護施設。そこで働く介護職員はお年寄りの面倒を見よう、と高い志を持って介護士になったはずです。実際、多くの有料老人ホームでもアットホームなサービスを心掛けている介護士がたくさんいて、努力しています。介護の仕事に生きがいを見出す人も少なくありません。入居者の家族とも連絡を取り合い、親身になってサービスしている例も知っています。

そんな健全な介護施設と、今回のようなブラックな介護施設は、どこに差があるのでしょうか。施設や設備に違いはありません。どこから道をそれてしまったのでしょうか。実は利用者の家族の側にも原因があるのではないかと僕は考えています。有料老人ホームは認知症のお年寄りでも安心して任せておけます。それをいいことに、家族がお年寄りを施設に入れたら最後、ほったらかしで尋ねてもこないという悲しいパターンが現実に多くあります。まさに姥捨山です。一方では足繁く施設に家族がやってきて、団欒をしたり、職員と打ち合わせをしたり、と賑やかなパターンもあります。この場合には職員の意識も高まり、ブラックになる可能性もありません。

家族がよく尋ねてくるパターンが多い愛のある老人ホームと、お年寄りをほたらかしのパターンが多い愛のない老人ホームでは、職場の雰囲気も職員の意識も大きく異なるでしょう。そして後者の愛のないほったらかしの多い施設では、しだいに職員の心もすさみ、愛情を持って入居者に接することが出来なくなることが考えられます。すさんだ心の行き着く先が、職員Aの殺人動機になった恐るべき心の闇だと思うのです。

「どうせ家族からも見放されたじいさんばあさん、生かしておく意味がみつからない。いっそ俺があの世へ送ってやるよ」

職員Aがそう考えたかどうかは知りません。あくまでも僕の想像に過ぎません。でも自分の親の介護が決して遠くない年齢に差し掛かった僕は、他人事とは思えないのです。僕の今回の推理は見事外れてくれることを期待します。本当の介護とは何か。お金だけでは片付かない、家族の問題として深く考え込んでしまうのでありました。

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2 comments to “川崎市老人ホーム3人転落死にみる介護の闇”
  1. 今井くん自供しましたね。しかし証拠に乏しく自白と状況証拠だけなので、客観的で信頼に足る自白を得て欲しいです。
    「動機」はたいして興味はありませんが、自分が裁判員なら、何の葛藤もなく極刑を選択すると思います。

    • 物証が乏しいのは、それまで3件とも、警察が「事故」として扱い、司法解剖もしてこなかったからです。素人の僕でさえ「殺人事件」として推理するほど、あきらかに状況が怪しいのに、なぜ警察や施設側が気づかなかったのか不思議です。今にして思えば、後の相模原の知的障害施設殺傷事件につながる、様々な要因があったはずです。警察の不手際につきますね。

桝本隆 へ返信するコメントをキャンセル

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