奴はいきなりビール瓶で店員の頭を殴りつけた

さっきまで機嫌20130709-221243よくビールを飲んでいたのに、今は渋谷警察署にいる

会社帰りにいつもの店で一杯やっていたら、変な客が一人入ってきて変な英語で店員さんに絡み始めた。一見して様子がおかしいアジア系の若い男だった。奥のカウンターに独りで座って飲みながらテーブルを拳で叩いている。変なやつだなあと思っていたら、レジのところへやってきて再び変な英語で店員さんに何か絡んでいる。何やら自分の持ってきたきたWiFiのメモをどうしてレシート捨ての箱に入れたのかと抗議しているらしい。

と思うまもなく、隣で飲んでいた常連さんのライターを勝手に掴んで店の奥のカウンターへ向かい、まったく別のお客さんたちが飲んでいたビールの瓶を掴んでレジのところへ戻って来た。と思う間もまもなく男はまだビールの入っているビール瓶を逆手に持ち、いきなり店員さんのこめかみのあたりをおもいっきり殴りつけた。さらにあわてて飛んできた店長の顔面にも強烈なパンチ。二人ともその場にうずくまっている。男はさらに店内で暴れんばかりの勢いである。

暴行傷害の現行犯だ、逮捕しなければ、ととっさに僕は思い、その男に飛びかかって取り押さえようとした。隣の常連客も協力して男を逮捕しようとした。(現行犯の場合は民間人でも逮捕権がある)。がその若い男は相当に腕っ節が強く、格闘技をやっているように思えた。さすがに53歳の男二人の力ではなかなか押さえきれない。もう一人の常連客が男の右腕をがっちり掴み、僕は男をうつ伏せに床にねじ伏せて頭を押さえ込んだ。

その時男は僕の左腕にがぶりと噛み付いた。噛み付きをやるということは追い詰められた証拠だから、取り押さえは成功したも同然だった。しかし噛み付いたままで皮膚を食いちぎられてはたまらない。「ドント、バイト!」と僕は怒鳴りながら、若いころ大阪でよくやらかしていたヤクザの喧嘩の極意(髪を引っ張る、目をつく)を実行に移そうとさえしていた。男が噛む力を強める、そしたら男の髪を強めに引っ張る、すると一時的に噛む力が弱まる。また強く噛む、その繰り返しだった。

まもなく宇田川交番から警察官二名が駆けつけ、男を押さえ込もうとした。が巡査たちは逮捕術がなっていない。警棒でこねくり回すばかりで、被疑者の両腕を後ろに回すのにも手間取っている。男は僕の腕に噛み付いたままだ。早く替わってくれよう、逮捕はあなた方の仕事でしょう。男の腕を掴んでいるもう一人の常連客は、早く手錠をかけちゃって下さい、と巡査に何度も言ったがそれもしない。男の両腕を後ろに回し警察官が完全に確保した時点で、男はようやく僕の腕を噛むのをやめた。僕たちは後の処置を警察官に任せることにした。

救急車が到着し、ビール瓶で頭部を殴られた店員ら二人はそれに乗って病院へ向かい、加害者の男は身柄を確保されてパトカーで運ばれていった。さてこれで一件落着かと思いきや、刑事は取り押さえた僕たち二人に向かって被害届を出して下さいませんか、というのだ。まだ夜の8時だったので一筆書くくらいはいいだろう、と思って渋谷署に向かった。渋谷署にパトカーで入ると、僕を見て署員に緊張が走った。(失礼な!)。担当官は、「ガイです」(警察用語で被害者のこと)と僕を紹介し、緊張が解けた。一見して喧嘩か何かと思われたのかもしれない。心外だが人は見かけで判断される。

そしてそれから被害調書の作成、供述調書の作成と深夜まで作業が続いた。さらに夜半過ぎ、これから実地見聞をやるから、と再び事件現場に向かった。そこでは証拠作りのために犯人役の刑事と一緒に再現ドラマをやるのだ。これがまた時間がかかる。それが終わってまた署に戻り、調書を描き上げたらこんな時間になってしまった。さすがに刑事さんはクルマで自宅まで送り届けてくれた。

被疑者はポケットから出てきたパスポートによるとカナダ国籍のアジア人、Tao Xus Song 22歳。たぶん香港人だろう。22年前に生まれていれば香港返還前だからカナダ国籍が与えられる。しかし日本人をなめきったあの態度はなんなんだ?カンフー映画じゃあるまいし大立ち回りをやる神経はまったくもって尋常じゃない。僕の調書を担当した夜勤の刑事はマル暴(ヤクザ担当)が本職だというが、日本のヤクザのほうがまだマシだと言っていた。僕もまったくもってそう思う。

とにかく刑事訴訟に発展してしまった以上、職場にも報告しないといけないし、今後も何かとメンドクサイだろうなあ、と思うのであります。被疑者を逮捕したヒーローにこれ以上負担をかけないでいただきたいと思うのです、検事さま。でも日本の治安のためには我々一般人もそれなりに血を流し、できるかぎり貢献していくのも当然だとは思うのであります。
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加筆 :後日談
懐かしいブログが出てきたので、加筆しておきますが、実はそれからがかなり面倒くさかったのであります。この案件は警視庁渋谷署から、なんと東京地検公安部に移されることになり、かの検察庁の合同庁舎ビルへ、何度も足を運ばされることになりました。国際犯罪と見なされ、それは公安部の管轄だったからです。公安部の部屋は特捜部と同じくビルの最上階に近いところにあり、それより上には高等検察庁があるくらいで、最上階には最高検察庁、検事総長の部屋があるという、一般人がめったに足を入れることのないフロアでした。

たかが暴行事件くらいで、なんとも大げさな、と思いましたが、国際麻薬組織との関連でも疑われたのでしょうか。結局は拘置所に収容されていた容疑者は、ただのバカだったと言うことが分かり、慰謝料を払って強制送還という結末になりました。その間に感じたことは、容疑者側についていた国選弁護人というのが、恐ろしく無能で要領を得なかったことです。その弁護士は事務所も持たず携帯電話一本で、それも非通知なのでこちらから連絡もできないという状況でした。かかってくる電話もハッキリしゃべらず意味不明。

そもそも刑事事件につく国選弁護人なんて、ろくな仕事もなく、難儀な仕事を押しつけられるだけの、不遇な弁護士に違いないだろうとは思っていました。それが容疑者の本国の家族に連絡がつかない、だとか拘置所で容疑者が対応しない、だとか様々な理由をつけてずるずると引っ張り、一向に仕事をしている気配がないのです。やがて拘留期限が迫り、最後には見るに見かねた担当の検事正が、弁護士の仕事まで肩代わりするような形で、どうにか話をまとめてくれました。強制送還まで異様に時間がかかったのは、ひとえにあの無能な弁護士のせいだったのだなあ、と今にして思う次第です。

弁護士と一口に言っても、単に司法試験に合格して事業の許認可を受けた自営業者にすぎないわけで、その能力の差は想像以上に大きいものがあるようです。それを知る良い機会でした。

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2 comments to “奴はいきなりビール瓶で店員の頭を殴りつけた”
  1. 急所を知っていることが重要ですね。とくに激痛だが実害が少ない、頬骨下、喉の付け根のくぼみ(強く押さえると軟骨が折れたりするので、そっと押すだけで痛さと咳と窒息の恐怖でひるませられる)、あとは送り衿締めで落とす。逃げないよう向こうずねを蹴り飛ばすことも肝要。

    先日、エレベータの中でおっさんが激しく私をにらんでました。先に乗ったおっさんを無視して行き先階のボタンを押したことにムカついたらしいのですが、いつでも動けるように姿勢を正して、下げた視線(踏み込んできた時を見逃さぬため)をはすざないようにしていたら、なにやら捨て台詞らしきものを吐きながら先に降りていきました。1つ下の階の住人。

    江戸時代の武士ほどではないにせよ、隙なく、常に「切られること」今なら「おかしなやつに出合うこと」「災害・事故に出合うこと」を前提に生活したいと考えています。
    別に肩をいからせた緊張を強いられるわけでもなく、「事件が他人事ではないことを意識する」ちょっとした注意だけですむと思うのですが。

    • 亭主さん、コメントありがとうございます。
      僕は居合道をやっていて枕元に日本刀をおいて寝ているくらいだから「武士道とは死ぬことと見つけたり」といった意識は常に持っていますね。武道をたしなんでいると一瞬の身のこなしというのには自信がもてます。
      ケンカは体力じゃなくて知恵だから、そういう意味ではケンカを怖いと感じたことはないです。

      昔、本職のヤクザ屋さんと飲んでいた時に教えてもらったことがあります。
      「わしらは不摂生しとるから体力なんてありゃせん。だけど絶対にケンカには勝てる。なぜやかわかるか?」
      「一般人はムショに入らんことを前提にケンカしよる。わしらはムショに入ることを前提にケンカする。それだけの違いや」

      要は相手を殺してしまってもいいんならケンカは簡単なんですけどね。われわれ一般人は過剰防衛にならないラインをどこまで正確に見極められるか。その知恵の勝負になるというわけです。卑怯な手段はいっぱい知っていて、あとはそれを使うか使わないかの判断。突き詰めれば指先一本を相手の眼球に突っ込むか突っ込まないか。そういう話になっちゃうので、ちょっとぐらいの格闘技のテクニックなんてほとんど意味を持たないと僕は思っています。えへへ。

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