なぜ朝日新聞だけが森友事件をスクープできたのか

もう森友問題などとは呼びたくありません。森友文書の改ざんは3月12日明らかになり、首相の関与も明々白々といった状態になっています。もはや森友事件と呼んで歴史に名を残すべき、戦後最大の日本の民主主義の危機です。国民、官僚、メディアが一丸となって、この事件を本質まで明らかにし、日本の政府を健全化する以外に危機を乗り越える道はありません。

この件に関しては、右も左も関係ありません。保守もリベラルも関係ありません。「隠蔽」を許さず「真実」を追求するのみです。3月2日に朝日新聞が独自取材で、財務省内部の改ざん文書の存在を衝撃の大スクープ報道してから、3月12日にそれを認める報告を、財務省が提出するまでの急転直下のいきさつは、僕が産経デジタルに依頼されて書いた記事、

『朝日新聞と安倍首相の一騎打ち』森友文書改ざん、勝者はどっち?

に書いたとおりです。

産経デジタルから連絡があったのは3月10日の夜でした。新聞社の中では読売新聞以上にさらに右寄り、政権寄りの報道で知られる産経新聞が、ライバルである「朝日新聞のスクープを評価し、首相の責任問題をも問う」といった記事の執筆を依頼してきたのは驚きでした。電話口で思わず、僕は失礼ながら「え?産経さんにそんな記事を書いても良いのですか?」と問い返したくらいです。担当編集者は「もちろんです。うちは是々非々であって、右左は関係ありません」とキッパリと言いました。

その時点で僕は、ただならぬことが今、この日本で起こっているのだと直感しました。マスメディアが揃って真相の追究に乗り出している。おそらく官僚の現場も決意を固めたのだろう。そんなことを考えながら1日で記事を書き上げました。3月12日以降の事態の推移は、みなさんよくご存じのとおりです。今日はどうやって朝日新聞がこのスクープを出せたのか、それを妄想してプチ小説風に書いてみました。朝日新聞社に東大法学部卒の社員が大勢入社していることは事実です。また官僚たちが今どういう状況にあるかは、以前書いた記事、

日本の官僚は『内閣人事局』で骨抜きにされた

をあらかじめ読んでおいて頂けると、ストーリーがよく分かると思います。

ーーー

1月下旬のある夜、都内のありふれた居酒屋で、スーツを着た中年男女が親しげに談笑していた。新年会を兼ねた年に一度の同窓会で、みなこの時ばかりは年齢も肩書きも忘れて、学生時代に戻った気分でリラックスして楽しんでいたのである。それは東京大学法学部の、ある年次の、よくある同窓会であった。ビールを酌み交わし、厳しかった教官の話題や、お互いの家族の近況などが、冗談交じりで楽しく語られていた。二人の男が話し始めた。

B「Aくんのところは奥さんは元気かい? たしかお子さんが、そろそろ中学校に上がる頃ではなかったかな」
A「ああ、もう下の子もこの春に中学生さ。女房は相変わらず元気すぎるけどな」
B「それは良かった。Aくんと言えば財務省に成績トップで入省だもんな。僕ら同期の出世頭じゃないか。もう課長だって?」
A「うちは財務省の中でも端っこの局だよ。Bくんこそ天下の朝日新聞で気鋭の記者として活躍していると聞いているぜ」
B「まあな。今のところは好きな記事を書かせてもらってるけどな。しょせん民間企業さ。日本丸を率いるAくんにはかなわないよ」

そんな中で、当然のように、森友問題についても話題に上った。

B「うちは政治部の若い記者たちが、財務省に書き換え文書があると騒いでいるけど、Aくんの仕事には影響は出てない?」
A「ああ、僕は直接関わっていないけどね。同期で入省した奴がもろにかぶって、死にそうになってるよ。どの部署も、上層部は首相官邸の顔色うかがってばかり、という点では同じだけどな」
B「Aくんが関わっていないと聞いて安心したよ。実は既に文書書き換えの証拠もそろっていて、いつでも表に出せると噂だぜ。気をつけろよ」
A「気をつけていても、難しいね。霞ヶ関というところは、すべて上にお伺いを立てて、それがさらに上にお伺いを立てて、という世界だからな。運しだいさ」
B「そういえば司法試験を受けたCくんは、検事になったはずだから、何か知っているかも」
A「そうだね、Cくん、今は東京地検に戻ってきたんだって?」
C「うん。うちは転勤が多くて、女房に文句を言われっぱなしだったよ」
B「Cくんは森友問題について何か関係しているの?」
C「あれは大阪の連中の仕事だからね。僕は関わっていないよ。でも特捜部ってところは、両方の証拠を手に入れているものさ。間違いないね」
A「森友文書の書き換え前と、書き換え後の両方か? それはマズいな。では週明けにでも理財局に確認してみよう」
B「そのほうが良い。これはたぶん遅かれ早かれ表に出るから、君は関わらないようにくれぐれも注意してくれ」
A「ありがとう。僕のことは心配しないで、Bくんは自分の仕事をまっとうしてくれ」
C「うちのほうでも、大阪地検の特捜に確認してみるよ。後輩がいるから分かると思う」
B「分かったら知らせてくれ」

このような会話が、東京大学法学部の同窓会で行われるのは、ごく普通のことであった。しかし今回の森友文書について同窓会で語っていたのは、彼らだけではなかったのだ。各年代、各世代で、似たり寄ったりの会話が交わされていた。朝日新聞の社内では、すでにこのニュースをいつ掲載するか、というところまで編集責任者レベルでは情報が共有されていた。政治部の編集責任者であるDは、この記事をリリースすることに慎重だった。慶応義塾大学出身のDは、三田会の先輩であるFからこんな電話を受けていたのだ。Fは内閣情報調査室に務めていた。

F「あなたのところで、森友文書を書き換えた証拠を掴んでいる、という情報は私のところにも入っているわよ」
D「さすがF先輩ですね。内調にいるだけのことはある」
F「でもこれを報道するのは、今はまずいと思うの。官邸は全力に潰しにかかっているし、おそらく証拠不十分で誤報扱いされるのがオチでしょう」
D「官邸の怖さはよく分かっています。でも今回は確実な物的証拠がそろっているのです」
F「そのようね。Dくんのために忠告しておくけど、今度はDくんの首が飛ぶどころじゃすまないわよ。朝日新聞自体が潰されるかも。それに霞ヶ関では死人が出るかもしれない。そんな状況よ」
D「わかりました、先輩。念には念を入れて行動します」

Dは翌日、例外的に社内の経営部門のトップに確認をした。しかしこの書き換えの証拠は本物であるという情報は、複数から得ている、最終的にはDの判断で決めて良い、と森友問題については投げ返されてしまった。Dはこの重要な局面をどう処理すればよいのか、自分一人で判断しなければならない不運を呪った。考えた末、Dは最も信頼できる部下であるBを会議室に呼んで、意見を求めた。

D「これは正しいか正しくないかの判断ではない。報道すべきかしないべきかの判断なのだ。Bくん、君ならどうする?」
B「僕の個人的な意見ですが・・・報道するべきだと思います」

Bは答えてしまってから、親友である財務省のAや検察庁のCの顔を思い浮かべ、彼らにまずことわってから結論を出すべきではなかったか、と思い直した。しかし結論は既に出てしまっている。Dは即座に自室に戻って、金曜日の紙面を確定する作業に入っていた。Bはその晩、まずAに電話をした。

B「例の件だが、今週中に紙面を賑わすことになった。財務省の君をはじめ、多くの友人に迷惑をかけることになるかもしれない。許してくれ」
A「僕にあやまる必要は無いさ。少なくとも僕の周辺の連中は、今はすでに君の見方だよ」
B「もし君の出世に響くようなことがあっては・・・」
A「僕はそんなヤワな男ではない」

続いてCにも電話した。

B「例の件だが、検事の君に情報をもらっておきながら、今回は逆に君に迷惑をかけることになるかもしれない。許してくれ」
C「何を言っている。君は君の正しいと思うことをしただけだよ」
B「ありがとう。なんとお礼を言ったら良いのか、思いつかない」
C「僕も僕が正しいと思うことをしただけさ」

三人の男は、それ以上長くは電話で話さなかった。そして口には出さなかったが、それぞれが心の中で思っていた。次回の同窓会は忘年会のシーズンに行われるのだろうか、それとも新年会のシーズンに行われるのだろうか。いずれにせよその時にまた、完全に学生時代の感覚に戻って、美味い酒が酌み交わされることを願わずにはいられなかった。

ーーー

なんちゃってフィクションですが、現実はもっとドロドロとしたものであろうと想像されます。

何が言いたかったかというと、財務省の役人になるような人は、生真面目で、勤勉実直な優等生タイプが多いと言うことです。宿題をきちんと忘れずにやり、予習復習もして試験でよい成績を取り、掃除当番も進んで引き受けるような子が、大人になって役所で働くようになるわけです。そういう人が、好きこのんで公文書の改ざんなど、するわけがないでしょう。

総理大臣がついたウソを隠すために、役人が慌ててウソをウソで塗り固めようとして走り回った結果が、現状を招いています。前代未聞の国家公務員による有印公文書偽造罪と、国会への偽証罪として、役人に罪をかぶせようとするなんて、卑怯にもほどがあります。安倍首相が、最初から「妻が余計なことをしました。すみません。厳重注意しておきます」と謝っておけば、自殺者が出ることもなく、国会が空転するようなこともなかったのです。

そもそものウソをついた重大な責任を、安倍首相が認めようとせず、生真面目な役人たちに責任転嫁する姿は、見苦しい限りです。国民はちゃんと見ています。普段は内閣人事局の権限で、官僚たちを手足のように使い、いざとなると責任だけ負わせて切り捨てる首相には、もうこれ以上メディアも官僚もついていかないでしょう。

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