誰が日本を守るのか〜憲法と自衛隊〜

自衛隊

自衛隊のことをJAPAN SELF-diffenceなんじゃらと英訳するらしいが、どうせ海外からはJAPAN ARMYとかJAPAN NAVY、要するに日本軍としか呼んでもらえないのだから「軍」でいいでしょう。

1945年アメリカ合衆国は、日本を占領開始と同時に日本軍から軍装を解いてから、プレスコードでマスコミを抑え、次にめまいがするほど崇高で立派な理想を描いた日本国憲法を憲法学者の鈴木安蔵に作らせました。その前文は今自民党が作っているチンケな郷土愛だとか、そんなドメスティックなものではなくて、全人類愛、地球規模で完全なる平和社会を実現したいという、心の叫びにも似た「叙事詩」でした。

日本やドイツを相手に、多大な戦死者を出したアメリカが、心の底からもう二度と戦争はこりごりだと思ったのでしょう。これからは平和な世界が訪れるという期待に満ちた、若き日のアメリカの良心と日本の希望が語られた、青春の詩だったのです。その前文のみならず日本国憲法の各条文が実によく作られ、いかに素晴らしいものであったのかは、70年にわたってその条文を使い続けてきた我々日本人が知っています。海外各国は憲法を改正しながら使っていますが、日本は改正せずにオリジナルのまま使い続けられたのです。とりわけ日本国憲法の前文こそ、世界文化遺産だと、僕は勝手に思っています

さて、そこまで良くできた日本国憲法ですが、一点だけ平和ムードに流された感のある条項があります。この記事の直前に坂井万利代さんが投稿してくださった記事とは、一見全く逆の主張になりますが、僕は第9条2項さえ整えれば、あとはいじらないで良い、という考え方なのです。

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

この条項があるために自衛隊は軍ではない、などと詭弁を弄んだり、軍備増強は不要などといった自衛隊員を殺しかねない論調がまかり通ったりします。軍備は縮小が望ましいが、周辺国との兼ね合いを見て場合によって増強する必要があるのは、当然のことなのです。国際安全保障の最近の研究によると、十分に抑止力が効いた国同士では、戦争は100パーセント避けられるのだそうです。核兵器はオールロスになるので、今や抑止力にならない。通常兵器で最高に強くて、一発の弾も打たない、そんな軍が理想でしょう。

アメリカが守ってくれるというのは幻想です。アメリカは日本国憲法ができて数年は宗主国気分でしたが、すぐに朝鮮戦争で疲弊しました。「自分の国は自分で守ってくれ」とばかりに警察予備隊(自衛隊の前身)を作らせています。安保条約もあくまでもアメリカのご都合主義でした。議会の同意がなければ日本の援護に米軍を動かすことなどできません。ましてやトランプ氏のような、まるでドメスティックな人が大統領になったら、それこそ放ったらかしにされるでしょう。

憲法改正については、

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

これで十分です。これで自衛隊員の方々も肩身の狭い思いをすることなく、大手を振って、他国の軍同様に活躍できるでしょう。第1項はいわば国連憲章と同じことを言っているに過ぎません。第2項で

「前項の目的を達するため、国の交戦権は、これを認めない」

とすれば、仮に過半数の国民(主権者)が戦争に同意しても戦争はできない、強力な縛りがかかります。これだけのことです。これで絶対平和主義を貫いたまま、自衛隊を立派な正規軍にし、インターナショナルな規範に沿って国際安全保障に溶け込むことができます。僕でも思いつくような、こんな簡単なソリューションがどうして国会で出ないのでしょう。

今はIS(イスラミックステーツ)のような、全世界を相手にする、凶暴かつ合理的な今までにない国際テロ組織が生まれてしまった時代です。イラク戦争でジョージ・ブッシュが叩きのめした大地に、ゾンビのように現れた彼らとどう付き合っていくのか。僕たちが考えなければならないことは山積みです。憲法の条文なんて、僕に言わせれば一秒で修正可能なのです。

僕はあまり法律の文言をごちゃごちゃ煮詰めるのは、国会の場でこのところ不毛に感じています。集団的自衛権もなかったらどうするんですか?一国だけの軍事力で世界と戦えるほど日本の自衛隊は強いんですか?鎖国でもするつもりですか?自衛隊の強さと弱さについては、またいずれ書くと思いますが、今はまず国会で日本の安全保障の問題を先に議論してもらいたいものです。まず憲法ありきではなくて、まず現実ありき。憲法改正は何も今しなくても逃げやしません。憲法解釈の捻じ曲げは、今に始まったことじゃないし、現場はどんどん先へ行っています。お隣の国との関係でも、海軍は人民解放軍が出てくるまで先に手を出せませんから、コースト・ガードをいかに充実させるのか、保安庁のペラペラの船でいいのか。そう言った実利的な国家安全保障の話をもっと活発にしてもらいたいのです。

今回の改正日本国憲法の自民党案で気に入らない点は、懐古趣味的な前文と、追加された「緊急事態法制」(これは一歩間違えると戒厳令を敷かれ、一時的に三権分立が停止して内閣総理大臣の独裁となり基本的人権が制限される)に断固反対するものですが、それはまた次の機会に書くことにしましょう。

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10 comments to “誰が日本を守るのか〜憲法と自衛隊〜”
  1. Wiki「交戦権」の項目によると、日本国憲法のそれが意図しているであろう「国が戦争をする権利」という意味では、国際法では定義されないそうであります。
    Wikiより引用;
    >>「交戦権」と翻訳された部分は、原文(九条二項のGHQ英語による原案文)では “The right of belligerency” である。
    しかしながら実は、このような意味での「交戦権」という言葉・概念は国際法上ではほとんど用いられておらず、またその定義・内容についても明らかではない。また、諸外国では「国が戦争を行う権利」という概念が、そもそもほとんど存在していない。日本国憲法における「交戦権」という言葉の意味や、その否定は、国際的には共通概念となってはいないといわざるを得ない。<<

    >>戦争が原則として違法化されている今日、戦争に関する国際法(戦争法)においては、従事する国家の政府は、一定の権利義務が定められている。(中略)
    権利のうち最も重要なのは敵国の艦隊や港の封鎖を政府が宣言する権利である。叛乱者や革命家は交戦団体となるまでこの権利を保有しない。これら非政府・反政府勢力による紛争をめぐる情勢が叛乱から内乱に移ったことが明らかとなった場合のみ交戦権が認められる。しかし、交戦権を付与する明確な規則については今日、存在していない<<

    「交戦権を認めない」という規定を残すと、実は完全な自衛、他国が理不尽に日本の領土領海を攻撃し、機雷封鎖などをした場合の対処を国際法上放棄したとみられる恐れがなきにしもあらずです。

    • なるほど。「交戦権」という単語が国際的に意味を持たないのであれば、何かもうちょっと気の利いた単語に置き換えればいいと思います。何かうまい表現を考えてください。

        • 最大限に自衛隊を活用できる文言ですね。

          ただ「過去の戦争のほとんどは、自衛のため、を理由に始められた」という有名な言葉があるように、歯止めを失う危険性を感じます。

          ヤクザの喧嘩のように、肩が触れたとかで因縁をつけ、先に相手に一発殴らせてから、先制攻撃されたと言ってボコボコに殴りまくるという手法を取られないかな、という不安は感じます。

  2. >日本国憲法の前文こそ、世界文化遺産だと

    現行憲法の前文「自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって
    再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」て、
    「主権が国民存ずることを宣言」した、人権と平和という目的、
    (そのための国民主権。日本国憲法の三大原理、平和があってこそ
    自由です。(樋口陽一さんの著書、P8より)

    (桝本さんの記事のコメントと重複します。)
    「国と国の間の戦争なら」日本は徹底的に不戦の理念を貫きたい
     主権者である国民が戦争を二度としないように、9条2項を
     守りたいです。

    問題はISです。彼らは故郷(主にEU)で差別を受け、辛い目に
    あったのは承知の上です。
    しかしインターネットを駆使して、悪質犯罪者のような脅迫、行為。
    これは決して許されることではありません。私が知る限りでは、
    「ISは脅迫を実行」しています。(交渉不可能です。)
    ISがEUを壊滅させるほどの核兵器を持ったときが、第3次
    世界大戦の始まり、との見方が多いと聞いています。
    これは未然に防がなくてはいけない、と私も考えています。

    (今のところ、安倍首相はIS、または中東には関心がありません。)
    2015年12月21日 樫の会「公演内容により」
    (最近講演内容が公開されました。)

    http://oaksociety.org/lecture.html#k112

    ・ 新安保法制が成立しても、中東・アフリカの混乱には日本が距離を置く姿勢
     は変わらない。
    ・トルコにNATOの難民キャンプを作り、日本が支援するというアイデアがあった。
     しかし官邸は興味を示さなかった。

    • 「イスラム国 テロリストが国家をつくる時(ロレッタ・ナポリオーニ)」という本が、かなり踏み込んでISについて書いています。それによるとISは行政機関も整備し、かなり理知的に国家建設を着々と進めているようです。

      僕もある程度は、このサイトでISについて触れてきましたが、自爆テロ+核兵器という組み合わせについては、想像するにも恐ろしく、筆が進みませんでした。しかし戦争の形態は(前にも書きましたが)、通常兵器→核兵器→代理戦争→ゲリラ戦争→国際テロ、と時代によって形を変えてきました。

      テロは犯罪であり、国同士の戦争とは区別すべきだ、という理論もありますが、ことISについては欧米諸国のほとんどを敵に回しており、彼ら自身が「戦争」と認識しているところからみて、僕は戦争行為だと考えるのが妥当だと思います。

      もっと恐ろしい表現をすれば、ハルマゲドン(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教によって黙示されている世界最終戦争)の認識があるのかもしれません。仏教徒の僕には迷惑な話ですが。

      テロとの戦いについて語る時、必ず思い出すのが、元自衛隊の泥憲和さんのセリフです。「自衛隊はミサイルからもみなさんを必ず守ります。いかなる戦力からも、命をかけて国民を守る覚悟ができています。それはお約束します。ただしテロからは守ることが出来ません。自衛隊はそのようには作られていないからです」

  3. ISはイスラム国と訳されるのは適切ではないと、杉江さんが
    以前記事、または著書で指摘されています。

    私の友人でトルコのアンカラに住んでいる友達からのメールを
    少し抜粋します。
    「パリの爆発にせよ、きっとこれからもいろんなところで続いていく
    ので しょう。アメリカやフランスに住むイスラム教徒が毎日報復を
    恐れて恐怖心を抱いている 状況で、心から安全な場所って
    すごく少ないのだと思います。トルコみたいな大きな 国がたった
    一人の人間によって壊されていく、その事実に憤りを感じます。」

    敬虔なイスラム教徒に失礼な訳です。

    樫の会 2015年12月21日 「新安保法制をどう考えるか」
    で、私が知っている衝撃的な内容が入っていません。
    「IS対策が国際法の範囲内の空爆だけで対応しきれず、地上戦
    まで持ち込まれなくなる」です。

    また、ISの核兵器についてですが、ISがたびたびツイッターなどで
    脅迫しています。(本当に作れるかはわかりません)
    しかしISは省庁を持っていたり、また人頭税(生きているだけで税金を
    払う)、石油も輸入していました。

    「EUが壊滅するほどの核兵器と公言」したら、一瞬でどの国も
    戦争の体制に入り、全体主義になりかねません。
    「どの国のテロの範囲で治めたい」のです。

    この講演内容では安倍首相、お友達内閣はISには関心がありません。

    問題はこの点です。

    ・中国は自衛隊が米軍と一緒に行動すると考えていることから、新安保法制
     に今更反対する理由はないと思われる。

    ・ 米国側は大統領府・国務省よりも、国防省が新安保法制に積極的である。
     大統領府・国務省は、日中紛争に米国が巻き込まれるリスクを懸念している。
     (藤原貴一教授の解釈では、オバマは全く集団的自衛権に肯定的ではないの
     です。)

    ・新安保法制は安倍政権にとって、憲法改正の一里塚と言える。

    憲法改正(最終的には、第9章2条を削除したい)ことにより、わざわざ
    対米、対中関係を悪くするつもりですか? ということです。

  4. >自爆テロ+核兵器という組み合わせについては、想像するにも恐ろしく
    >筆が進みませんでした.

    私がこれを最初に聞いたのは猪口孝さんからです。
    私が知る限り、国際政治学者は、語学が堪能で、
    諸外国にネットワークを持ち、外交文書が解説できます。

    (核兵器の作り方については、私は詳しく知りません。
    しかし、物理学の学者がISに入る可能性もあります)
    EU壊滅、例えば日本でテロを起こすなら原発を狙う可能性
    があるだろうと。

    最悪の事態を考えるのは、安易に戦争を肯定することに
    なるかもしれません。
    そのようにならないように、IS対策が地上戦になるのは、
    藤原貴一さんが講演でおっしゃっています。
    (戦車だけではなく、狭い道も考慮して銃戦です。
     こんな戦争の仕方はどの国だってしたくないと思います。)

    ただ、安倍首相は、「ISは地球の裏側の問題」で、憲法改正を
    して、わざわざ対米、対中関係を悪くしたいのでは、ないかと。
    (今、そんなことをしている場合ではないと思うのですが)

    小林節さんのお言葉をお借りすると「(安倍首相は)状況を
    見ないで走りすぎて、思ったとおりに行動する」です。自民
    党が与党のままだと、次の首相は(防衛オタクの)石破さん。

    そういう意味で、憲法改正(第9条2項)は十分にまだ議論
    する必要があると考えています。

  5. 僕は基本的には現行憲法のまま変えなくていいと思っています。なぜこんな記事を書くのかというと、自民党が改憲、改憲と騒ぐので、もしどうしても変えなければいけないのなら、という前提で、自民党案よりはマシな案にしたいとい思いからです。

    9条には、中学生高校生の国語のテストとして読んだ時、戦車の一台たりとも保有してはならない、と読めてしまうという欠点があります。自衛権まで否定していない、という最高裁判決で合憲としていますが、やはりできるものなら、そんな際どい解釈をしなくても自衛隊を持てる表記に、もともとしておいたほうが良いでしょう。

    もっと言うなら、そんな海外に行けるほど自衛隊を強化するヒマがあったら、対テロユニット(CTU)を整備して、テロ対策に重点をおいて、原発に手榴弾を投げ込まれたりしないよう、安全を徹底すべきです。日本が反イスラム国ではないことをアピールするのも良いでしょう。

    昨年、シリアなどの難民対策に人道援助を行う発表をした際に、今後は日本もターゲットとして狙うと、ISに宣言されました。そして二人が惨殺されました。いやいや日本は関係ないから、と言っても聞く耳を持たないのがISです。そして軍隊や自衛隊では対応できないのが、テロリズムなのです。世界最強の軍隊を持つアメリカが、911を防げなかったことを思い出して下さい。

    僕は最近は国際安全保障のことを考える時、軍備のことよりも優先的に、テロ対策を考えてしまうクセがついてしまいました。時代とともに変わってくる、それが安全保障の宿命だと思います。

  6. >自民党案よりはマシな案にしたいとい思いからです。

    戦後70年にあたり、初めてでた憲法草案があんなひどいもの
    でよいのでしょうか、と私も思います。
    桝本さんの私案のほうが、自民党の草案より多くの日本人に
    絶賛されるでしょう。

    漫画政策パンフレットで「現行憲法は『(日本の無力化のための)
    GHQ案の8日間の徹夜の翻訳』とデタラメばかり書いてあります。

    >自衛隊は軍ではない、などと詭弁を弄んだり

    ここで怖いのは以下の点です。

    「政府が9条を非現実だという世論の支持をよいことに
    歯止めのない「解釈改憲」の道を歩んでいる。これ以上「解釈改憲」を
    許すことは、立憲主義の基礎を切り崩すことになり、かえって危険である」
    (「立憲主義と日本国憲法」高橋和之、有斐閣、P62より

    阿部首相は「私が知る限りですが」集団的自衛権という新しい法律を
    作っても、IS対策には関心はありません。
    阿部首相は憲法改正で頭がいっぱいです。
    憲法草案で本音が満載ですが、対米、対中関係の悪化です。

    (12月の講演会で藤原貴一教授が「はっきり言ってバカですね」と
    バカ、バカとおっしゃっていますが、講演記録には要点しか
    残されていません。当然ですが…)

    >テロ対策を考えてしまうクセがついてしまいました。

    米外交問題評議会長リチャード・ハース「地上戦の投入も検討すべきと
    考えている」

    元米国務長官ヒラリー・クリントン
    「ISを打倒するためには、空爆と地上軍の活動をうまく連動させる
    必要がある。(中略)イラク等の15年の戦争の教訓とは、現地社会を
    守る現地の人々と国ではならない。(中略)それでも現地および地域的
    な軍隊を支援することは不可欠だ」

    (Foreign affairs report,2015No.12 p14 , 2016No.1 p70 により)

    「地上戦になると結論を出していいかも」しれません。
    (核兵器ですが、まだ可能性の段階です。)
    しかしISに啓発され、忠誠を誓うさまざまなテロ集団が存在します。

    今、杉江さんのサイトには、良い記事がたくさん出ているので、改めて
    まとめます。
    阿部首相の思惑(憲法改正して、わざわざ対米、対中関係悪化)と
    日本人が思うIS対策には、大きな溝があるようです。

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