編集スタジオ

予定時刻より30分以上前に、僕一人だけスタジオに到着したらしい。
無口そうな編集マンがちらりと挨拶に来る。
初めて見る顔だ。
「スギィさんの名前で来週まで入ってますが、これでよろしいですよね?」
「はい。よろしくお願いします」
反射的に僕は答えながら、もったり靴を脱いでスリッパに履き替えた。

「今日は二時間の予定ですが、それでよろしかったですか?」
「ええ」
これまた反射的に応える。
どこのスタジオでもあまり変わらない、いつもの光景である。
「部屋の方、もう使えるので早めに始められますが、どうします?」
「いや、予定通りで」

テープも台本も持ってきていないので作業を始めようがないだろうがぁ!
ここまできて、僕はハッと気がつく。

自分が何の番組のためにここに来たのかをスッカリ忘れている。
番組タイトルも思い出せない。
担当者名もわからない。
そこまでモウロクしたのか?!俺?!
いや、忙しすぎてちょっと混乱しているんだ。。
どうせ担当ディレクターが現れ、そいつの顔を見りゃあ全部思い出すさ。

やがてドアが開いて担当ディレクターが現れた。
けっこう美人でいかにも仕事ができそうな30代の女性だ。
が、しかし初めて見る顔だ。
ありえない!
担当Pと担当Dが初対面なんてありえない!
訊ねるまもなく彼女は「まだ時間ありますね」とつぶやき、外へ出かけてしまった。

開始時刻まで狭いロビーのソファで待っているうちに、
顔を見たこともない背広を着た人たちが、しだいに集まってきた。
へんだな、最終試写でもないのに、こんな大勢集まるなんて。

突然ドアが開き、
「スイマセーン! ギリギリ、マニアイマシタ!」
出演者らしきハリウッドスター然としたハンサムな白人男性が入ってくる。
誰かが僕の方を指さし、彼に耳打ちした。
彼はまっすぐに僕の方へやってきて、さわやかな笑顔でお辞儀した。
「スギィサン。ワタシ、マイケルデス。ヨロシクオネガイシマス!」
とりあえず僕も挨拶を交わす。

これで僕が責任者だということが、その場にいる全員に知れわたった。
予定時間だが担当Dが戻ってくる気配はない。
彼女が永遠に戻ってこないことが、なんとなく予感で判る。

作業に必要であろうテープも台本も手元に無い。
番組内容も知らない。
そもそも僕は今日の件について何ひとつ知らない。
いまさら職場に電話して「えーと俺、今日何の仕事で来てるんだっけ?」
てな間抜けな質問をしたら一生の恥だ。
関係者あわせて50人近い方々が、すでにロビーにひしめき合っている。
冷や汗が出てきた。

無口な編集マンがチラリと時計を見た。
タイミングだ。
出演者が背広の人たち個々にしている挨拶はまもなく終わる。
僕が立ち上がって「では、そろそろ始めましょう」と言うべきタイミングだ。

で、なにを????
わからん。
万事アウト。
うぎゃあああああああああっ!!!!!!!!
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こんな夢を見て、さっき僕はベッドで目が覚めた。
こんなみょうに地味でリアルな悪夢は本当にイヤであります。
ウサギがたくさん出てくる夢をみたり、文鳥を肩に乗せて銀座を散歩する夢を見たりする奥さんが、うらやましいのであります。

※業界関係者にしかわからないネタですみませんm(__)m

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