2024年4月20日

別にお化けや幽霊がでてくるから「怪談」というわけではない。
なんとなく奇っ怪な話だから怪談なのだ。

僕が体験した。
それは蒸し暑い今夜、帰宅途中の桜坂、スペイン大使館裏の暗がりでだった。
汗を拭き拭き歩く僕の前を、すーっと一台のタクシーが抜き去り、出入り口など無い高い塀がつづく所で止まった。
「あれ、こんなところに裏口かなんかあったのかしらん?」
と思いながらも、どんな人が乗ってきたのか興味があって、僕は車内を覗いた。
ちょうどタクシーは室内灯をつけており、料金の精算をしているらしく、運転手さんが後ろを振り返る姿がよく見えた。

夏風邪だろうか、僕は脂汗をかきながら、ゾッと鳥肌がたっていた。
半開きになっていたドアが大きく開き、ばたんと閉まると、まもなくタクシーは走り去った。
なんだかへんだなあ、とは最初から思っていたのだ。
どれだけ背が低い人だろうと思うほど、後部座席の客の影は薄かったが、案の定、タクシーが走り去ったあとの道には誰ひとりいなかった。

僕は頭痛を感じ、視野狭窄のようになって、ブルブル震えながら一目散に家路をめざして早足で歩き続けた。
きっとタクシーは、その時は既にとっくに客を降ろした後であって、運転手さんがわざわざ止まって、ゆっくり帳簿をつけていただけなのだ。

と、僕は自分自身に言い聞かせようとがんばった。
でも無駄だった。

僕は見てしまったのだ。
ドアが閉まる瞬間に、運転手さんが振り返り、笑顔で確かに誰かに挨拶をしていたのを。

(怖っ)

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